なんとも後味の悪い売却劇でした。セブン&アイホールディングスは1日、子会社の百貨店そごう・西武をアメリカの投資ファンド「フォートレス」に売却しました。

発表から9か月、売却実施を2度も延期したにも関わらず、従業員や取引先、地元といったステークホルダーの理解を得られないままの「強行」でした。

そごう・西武労働組合がストライキを決行し、旗艦店の西武池袋本店が臨時休業する中での「売却強行劇」を、2023年3月に亡くなった創業者の伊藤雅俊氏が見たらどう思うだろうか、と思わずにはいられませんでした。

ステークホルダーを大切にしたイトーヨーカドー

セブン&アイの祖業であるスーパーのイトーヨーカドーは、ひときわステークホルダーを大切にした会社として知られています。

「信頼と誠実」をモットーに掲げ、株主だけでなく、顧客、従業員、取引先、地域といった幅広いステークホルダーを大切にする企業姿勢は今も企業経営のモデルとして尊敬されています。

そのヨーカドーを前身とするセブン&アイが、「モノ言う株主」の要求に押され、百貨店事業の売却に邁進し、その間、組合にも、テナントなどの取引先にも、地元にも、ほとんど根回しを行った形跡がないことは、驚きを禁じ得ません。

「百貨店ではなくなる」可能性も

多くのステークホルダーが今回の売却に反対・慎重だったのは、今回の売却が、単にオーナーが変わるという話ではなく、そごう・西武が事実上、百貨店ではなくなることを意味していると受け止められたからです。

売却先はアメリカの投資ファンドとは言うものの、買収後の旗艦3店(池袋、渋谷、千葉)の店舗再建の核は、家電量販大手のヨドバシホールディングスになるからです。

西武池袋本店の改装プランでは、フロアの相当な部分にヨドバシが入り、その分、既存の百貨店売り場は縮小、有名ブランドも移動を迫られることになっています。

目抜き通りからの移転となれば有名ブランドは退出する可能性がありますし、売り場面積が少なくなれば取引先との関係も縮小均衡に陥るかもしれません。

結局のところ、「西武池袋」は、最終的には「ヨドバシ池袋」と「+αのお店」といった形になる可能性があるのです。

これでは雇用は維持されないと労働組合が危機感をもって、ストライキで反対の意思を示すのは当然でしょう。