兵庫県内の介護老人保険施設で事務職として勤務する女性が、施設内で新型コロナウイルスのクラスターが発生した際に、亡くなった入所者の遺体を運搬したことなどによるストレスからうつ病を発症したとして、労災認定されたことが分かりました。新型コロナ対応の業務でのストレスを理由に、労災が認定されるのは異例だということです。

 代理人弁護士などによりますと、兵庫県宝塚市の介護老人保健施設で支援相談員として勤務している60代女性は、2021年4月に施設内で新型コロナの大規模クラスターが発生した際、隔離病棟での認知症の入所者の介護や、亡くなった入所者の遺体を運ぶ業務など、本来の業務ではない緊急業務に従事させられたということです。

 クラスターでは入所者・職員計50人以上が新型コロナに感染し、入院先で亡くなった人も含めると9人の入所者が亡くなりました。

 女性はその後、食欲不振や不眠、激しい頭痛などの症状に陥り、2021年6月にうつ病と診断されました。現在も休職しています。

 女性は去年、西宮労働基準監督署に労災請求していました。

労基署「ワクチン接種より前で、感染への恐怖があった」「遺体の顔が見える状況で、心理的負荷は強かった」

 西宮労基署は、新型コロナのワクチン接種開始より前の時期であったことや、女性の年齢で感染した場合の重症化リスクを踏まえると、感染症に対する恐怖を感じながら業務にあたっていたと判断。

 さらに、感染対策のために納体袋に収容された遺体を、その顔が見える状況で運搬していたことなどを踏まえると、女性の心理的負荷は強かったと認定。今年5月下旬に労災と認定しました。

労災認定受けた女性「コロナ対応の最前線に放り込まれ孤独やつらさを感じた」

 労災認定を受けた女性は代理人弁護士を通じて、「労災が認定され安心しました。混乱する現場で情報が錯綜し、自分の役割を黙々とこなしましたが、心理的なしんどさが蓄積されていきました。ご遺体に対面した際は、今まで経験したことのないショックを感じ、今も頭痛がします。コロナ対応の最前線に放り込まれ孤独やつらさを感じました」などとコメントしています。

 女性の代理人弁護士によりますと、新型コロナ対応の業務でのストレスを理由に労災が認定されるのは、異例だということです。

 また今秋には、仕事をめぐるストレスでうつ病などを発症した場合の労災認定基準が変更され、いわゆる“カスタマーハラスメント”のほか、新型コロナをはじめとした感染症対応が評価要素として加わります。今回のような労災認定が増えていくことも予想されます。

(MBS司法担当 松本陸)