5000mでは14分40秒台の日本新で入賞を
5000m予選は大会5日目の午前11時10分。1500m決勝が前日の夜21時30分。14時間を切るインターバルタイムだ。田中は「5000mの予選が(体力的に)一番キツいと思う」と予想している。
「そういうケースでは、去年の世界陸上まではただただ、流れに乗るだけ、というレースをしていました。しかし今年は7月のフィンランドで、途中から自分がレースを動かして勝つことができましたし、タイム(14分53秒60の日本歴代3位)も出せました。どこまで流れに乗って走って、どこから自分のペースで行った方がいいかを判断したい。どれだけ余力を残すかより、とにかく決勝に残るんだ、という強い気持ちが必要だと思います。1500mがあったから、という言い訳を抜きにして、その5000m1本というイメージで行けたらいいかな」
田中の自己分析では昨年も14分50秒を切る力が、5000mに関しては付いていた。しかし14分58秒60(9月の全日本実業団陸上)しか出せなかった。今季5000mは日本選手権とフィンランドの2試合しか走っていないが、「力の出し方がわかってきた」という手応えがある。
田中コーチが力の出し方の昨年との違いを、トレーニングの違いと関連付けて説明してくれた。
「昨シーズン(の練習)は1周目、あるいは最初の1000mで心のゆとりがなくなることが多かったですね。今年は心の余裕を持とうということで、最初はストレスのかからないスピードで入って、徐々にペースを上げていく練習を多くしました。レースでもビルドアップ的な走りとして現れています。アジア選手権の1500mもそうでしたし、フィンランドの5000mも3000m通過が9分10秒でした。昨年までは9分00秒前後で通過しないと、標準記録(14分57秒00)突破は見えていなかったんです。しかし9分10秒でも行けると思ってフィンランドは走りました」
昨年は5000mに出場していないと走れないイメージを持ってしまっていたが、今年は1500mでやりたい走りができれば、5000mにもつながるとイメージできた。そこが昨年との大きな違いだろう。
もちろんレースになれば、入りのペースが速くなることもある。そこは「ガツんと入る練習」(田中コーチ)もしている。昨年のようにタイムにこだわった走り方はしないが、そういう練習もしておくことで、レースになれば速い入りにも対応できる。ケニアではトレーニングでかなり追い込んだが、国内では練習で負荷を大きくかけることにとらわれないようになったという。レースで爆発する走りを目指すのが、今季の田中の走りである。
体力的に厳しい5000mの予選を通過すれば、決勝まで中2日。連戦が当たり前の田中にとって、かなりリフレッシュして決勝を走ることができそうだ。そして決勝がハイペースになれば、昨年のオレゴン大会なら6位以内に相当する14分40秒台(日本新記録)が予想できる。
「1500mも5000mもしっかり決勝に残って、残りさえすれば、のびのびと戦うぞっていう気持ちで行けそうです。そこが、5000mで決勝に残っても気持ちの余裕がなかった昨年との違いです。その経験を生かして2種目とも入賞以上を狙って行きたい」
おそらく田中は、日本人初というところに強いこだわりはない。現在の一番の目的は来年のパリ五輪でメダル争いに加わることだ。そのために、ブダペストでは少しでもメダルに近い位置で走る。それが結果的に、2種目入賞という形になるのではないか。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)