同じことを言い続けられる2人の関係

ポルトガルから帰国後は、「疲れた状態でも歩型が乱れない。乱れても修正できる」(内田コーチ)ことを狙いとした練習に力を入れた。

「ポルトガルがそうだったように、山西でも疲れがひどかったら歩型は崩れます。人間ですから。そうならないように、動きや顔色を見て練習を止めることもありますよ。トレーナーさんにケアをしてもらったり、体幹トレーニングをしたりして歩型の乱れや故障を防いでいます。私の目標は世界一の歩型(の選手)を作ることですから」
 
内田コーチは師弟関係が始まってから、「技術(歩型)とスピードをずっと言い続けてきた」という。山西の成長や、そのときどきの目的で具体的な言葉は違ってくるが、2人のやりとりは「ほとんど変わっていないと思います」と内田コーチ。

「私の好きな言葉は『耐えて勝つ』です。だから同じことを言い続けられる。選手も私を信じてやってくれる」

山西の言葉にも、内田コーチへの信頼が強く表れていた。

「(2人の間の)言葉に関しては大きく変わっていません。基本的に見ているものはずっと五輪の金メダルで、ビジョンが変わることはないかな、と思います。ただ18、19、20歳の頃から、今は27歳と徐々に大人になってきました。少しずつ、練習メニューやいろんなものの主導権、主体性の部分を明け渡してくれて、自由にやらせてもらっている。ある程度1人で考えてやらせても大丈夫だと、信頼をいただいているのだと解釈しています。1人の支援者として、誰よりも、誰よりも誰よりも、僕の可能性を信じてくださる方ですので、そこは変わらない関係ですね」

年齢が50歳も離れていることと、内田コーチのキャラクターで師弟と表現してしまうが、実際はパートナーとして一緒に歩き続けている関係だ。その関係が続いているから、山西も勝ち続けることができている。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)