島の「生と死」に向き合う 看護師の「うたさん」

瀬戸内海に浮かぶ、香川県土庄町の豊島(てしま)。かつて住民一丸で産業廃棄物の不法投棄問題と戦い、今では瀬戸内国際芸術祭で「アートの島」としても知られるこの島に、命を支える診療所があります。

人口減少、過疎高齢化が進む島で、日々島の高齢者たちの「生と死」に向き合う看護師・小澤詠子さん、通称「うたさん」に密着しました。

第1回第2回第3回から続く)

「先逝く人は得ですよ」夫を亡くした英子さん(77)

島の半数以上が65歳以上の高齢者という豊島です。島での診察を最後に、島外の病院に入院しそのまま亡くなるなど、二度と豊島に帰って来なかった人も少なくありません。

この日、うたさんが訪れたのは、1年前に夫を亡くし、いまは一人で暮らす英子(77)さんです。

(英子さん)
「80歳で、去年の8月23日が命日なんですよ。もう10ヶ月過ぎた。早いですね、もう。ミカン一筋でやってきた人で」

豊島で59年連れ添った夫婦。夫の利夫さんは、肺炎で去年8月に亡くなりました。最後のときは豊島ではなく、小豆島の病院で迎えました。

(小澤さん)
「寡黙な人でね、笑顔がとっても。みんなね、土庄中央病院の看護師さんも、『ええように笑う人やね』言うてね」

夫の利夫さんは、豊島を離れ小豆島の病院に入院していた際には、いつも英子さんのことを気にかけていたといいます。

「英子さんが車の免許も持たれとらんのですよ。だから、利夫さんは入院中に退院の励みに、『早く退院して英子を行きたいところに連れて行ってやらないかん、わしがおらんと、あいつはいけんのや』言うて。それ励みにしてね」

利夫さんは、豊島の診療所で診察を受け、小豆島の病院へ入院することを促された際、なかなか島を離れたがらなかったといいます。

(英子さん)
「もう終いはね、去年の6月ちょうど熱を出して、診療所行ったら先生に『すぐ土庄中央病院に連れていけ」言われて、それで『行こうや』いうたら夫は『明日にしようや』言うて」

「『どうして?』言うたら、『今日これからドライブに行くんや』って。もう終いやと思うてたんでしょうね。そいで島を一周回って、『熱があるんだからもう帰ろうや』言うても聞かないんですよ」

「もうずっと回って、そこまで帰ってきたからもう帰れる思うてたら、『まだ浜まで行って海岸見に行くんだ』って聞かないんです」

「ほいで明くる日に連れて行ったら『即入院だ』って言われて。それからもう、それが終いでした」

(小澤さん)
「豊島には帰って来れんかったね」
(英子さん)
「先に逝く人は得ですよ、後になったら誰も参ってくれない」