大工の棟梁・敏喜代さん(86)最後の診察
唐櫃地区に住む、86歳、一人暮らしの児島敏喜代さん。久しぶりの来院でした。

(敏喜代さん)「みんな早いな」
(小澤さん) 「おはようございます、お元気でした?」
(敏喜代さん)「えぇ、何とか生きとる」
(岩井医師) 「今日はどうされたんですか?」
(敏喜代さん)「知らん間に目ぇが腫れてなぁ」
(岩井医師) 「どっかぶつけたかなんか知らんけど」
(敏喜代さん)「知らん間になっとん」

また、首筋には二つの小さなしこりができていました。
(敏喜代さん)
「先生なんじゃろかこれ。痛うも痒くもないんで」
(小澤さん)
「きのう気付いた?」
(敏喜代さん)
「うん」
敏喜代さんは、待つように指示されました。豊島で生まれ育って86年、島の誰もが知る存在です。

(待合室で高齢女性)
「敏ちゃんは大工さんの棟梁でなぁ、若い時はこの一帯の家をみんな建てたいうぐらい」
(敏喜代さん)
「この診療所もワシが建てた」
(高齢女性)
「これも敏ちゃんが建てたん?」
医師の岩井さんは、岡山の病院に電話を掛けます。
(岩井医師・電話)
「豊島診療所の岩井と申します。4センチ大と2センチ大の固い頸部のリンパ節の、ごりごりのが二つ。そちらへ紹介させていただいていいですか?」

(岩井医師)「院長先生が見さしてくださいって言いよりますんで、だから月曜日の朝一に宇野(岡山)の病院に行ってください」
(小澤さん)「旅客船ね、7時55分に」
そのまま敏喜代さんは、岡山の病院に入院しました。
(岩井医師)
「調べてみんと分からんけどね、十中八九、悪性リンパ腫やろね。なんかね、寂しい」

この先、敏喜代さんは豊島の診療所に姿を現すことはありませんでした。
(第4回に続く)