「ドミノ倒しのように連鎖し、地球の気候システムが崩壊。人間には止められなくなる」

北極圏には長い年月、気温が0度以下であるため凍ったままの大地がある。永久凍土という。これが解け始めると凍土に閉じ込められていたメタンが放出され地球温暖化は加速度的に進むという。この永久凍土の面積を最も有するのはロシアだ。実は永久凍土の危機とウクライナ戦争が無関係ではないようだ。研究者に聞いた。

ストックホルム大学 環境・気候学 オルヤン・グスタフソン教授
「北極圏では世界平均の3倍から4倍の速さで平均気温が上昇している。(中略)ロシアの北極圏には広大な永久凍土がある。陸上や海底の永久凍土に貯蔵され温室効果ガスとして放出される可能性のある有機物の量は、地球大気中の二酸化炭素の約3倍、大気中のメタンの200倍にもなる。(中略)ロシアには世界で最も永久凍土の科学者が多い。膨大な知識がある。
ロシアによるウクライナ戦争でロシア連邦に制裁をもたらし、国際レベルでの協力ができなくなった。その結果、北極圏の永久凍土から放出されるメタンを今後予測することに悪影響を及ぼしている」

戦争による思わぬ弊害。さらにロシアの東シベリアでは森林火災が頻発している。そして森林火災が永久凍土の溶解を加速させていた。

同じく北極圏を研究しているアラスカ大学の岩花剛准教授からロシアの研究員に送ってもらったという東シベリアの映像を見せてもらった。普段は凍っている永久凍土の上に水があふれていて、車で走ると波のようになっていた。水量が多いため、マイナス40度でも凍らない状態になっているという。

アラスカ大学岩花剛准教授
「永久凍土の研究を始めたころは生きているうちにこんな激しい変化がみられるとは全然思っていなかったですね。もっとゆっくりゆっくり少しだけ温度が上がるような研究だなと思っていたんですが最近はダイナミックに地形が変化したり洪水が起こったりとか、ちょっと個人的には予測しなかったことが起こり始めているなという気がします」

そして永久凍土が解けてメタンが放出される。こうした現象がある時期を越えると地球温暖化が暴走を始めるという。それを「臨界点(ティッピングポイント)」という。

東京大学 未来ビジョン研究センター 江守正多教授
「臨界点を越えるとそれがドミノ倒しのように連鎖し、地球の気候システムが崩壊。人間には止められなくなる。+4℃くらいまで温暖化が進んでしまう仮説も…。(中略)温暖化の影響っていうのはジワジワと上がっていくんじゃなくって、ある時点で急激に立ち上がる。そこがティッピングポイントで、永久凍土だったら、解け始めるとメタンが出てきて、メタンが出てくると温暖化が進んで、さらに凍土が溶け出して…、悪循環が始まる。そいう悪循環が始まる要素は地球のシステムの中にたくさんある。グリーンランドの氷がティッピングするとか、南極の西側の氷がティッピングするとか…。そうすると海面が上昇するとか、海流が変化するとか…。これらが連鎖する恐れがある。」

悪循環を始めた自然現象が連鎖した時にはもう人間が何か対処しようとしても後の祭りだと江守教授は言う。ただし、+4℃まで上昇するというのは何百年かけて動くもので今すぐ急にどうこうという話ではないという。しかし、手をこまねいているわけにはいかない。現在の私たちにはどんな選択肢があるのだろう…。