タイで日本ロングスプリント陣に勢いがついた。7月13日のアジア選手権男子400mで佐藤拳太郎(28、富士通)が45秒00で優勝。2位にも佐藤風雅(27、ミズノ)が45秒13で続いた。佐藤拳の45秒00は、高野進が1991年に出した44秒78の日本記録に次ぐ歴代2位記録、今年8月の世界陸上ブダペストの参加標準記録も突破した。8月2日以降に正式に代表に選出される。歴史的な記録に対する本人の感想や周囲の反応だけでなく、トレーニング内容、44秒台前半への意気込みなどを帰国時の空港で取材した。その内容を再構成して、一問一答形式の記事にまとめて紹介する。
「『ここで44秒99を出せないのはまだまだ弱いな』と最初に思いました」
――アジア選手権を率直に振り返ると?
佐藤:タイの慣れない気候の中、オールウェザーも普段使わないようなトラックでの試合でしたが、(予選、準決勝、決勝の)3本しっかりとまとめることができ、決勝は自己ベストで走ることができました。世界陸上に向けて収穫になったと思っています。
――決勝の45秒00のタイムを見た瞬間はどういう気持ちでしたか?
佐藤:レース前からすごく調子が良かったので、パーソナルベスト(45秒31)付近は狙えると想定していました。しかし45秒00を見たときは「ここで44秒99を出せないのはまだまだ弱いな」と一番最初に思いましたね。これでは世界と戦えない、と。うれしさもありましたが、悔しさの方がまさりました。
――それでも45秒00は日本歴代2位記録。過去32年間で一番の記録ということの喜びや、こんな反響があったというものがあれば教えてください。
佐藤:皆さん、私以上に喜んでくださいました。普段見てくださっている先生方だけでなく、知人でしたり、恩師の先生でしたり、私が感じている以上にすごく喜んでくださいました。周りの方がおめでとう、うれしいと言ってくださるのが何よりうれしかったりします。
――ライバルでもある4×400mリレー代表候補メンバーたちはどういう反応でしたか。
佐藤:ジョセフ(中島佑気ジョセフ・21、東洋大)はスタッフ経由で連絡をしてくれたんですけど、シンプルに「おめでとう」のひと言でした。風雅くんは心から喜んでくれましたね。一緒に走ってその場にいたからでもあるのですが、 最初に駆けつけてくれて、「やりましたね」って。本人は喜んでいないと言ってますけど、僕が喜びに浸る前に、もう先に彼が嬉しいですって言ってくれていた。もうその言葉で、風雅くんと今回ワンツーフィニッシュできて、すごく良かったなって思いました。
「タイムより、自分がどういう動きをしているかに重点を置いて練習をしました」
――45秒00の走りで課題となった部分は?
佐藤:アジア選手権はスターティングブロックを蹴った瞬間に浮いてしまって、うまく加速につながらなかったと思います。バックストレートでスピードに乗ることもできなかった。それで最後が上がったという見方もできますが、私の中では前半をしっかり走って、その上で後半につなげていく走りをしたいと思っています。そこは大きな修正点です。300m通過後のフォームがかなりバラバラになってしまったことも課題ですね。体力がない中でもロスを減らしていって、スピードを維持しなければいけないので、そこはまだまだ足りていません。これから練習拠点に戻って、アジア選手権の走りを動画で見直して、ここがどういう動きになっていたのか、こういう動きになっていたから失速になっていたかを確認します。
――昨年との違いは?
佐藤:昨年までも前半からスピードを高めていましたが、力を大きく使ってしまっていました。それを今シーズンからは、スピードを高めることにプラスしてフォーム、自分がどうやって走っているかにもフォーカスし始めました。練習ではタイムを意識するより、動画を撮って、自分がどういう形で動いているかに7割、8割、重点を置いて練習をしていました。
――そうしようと思ったきっかけは?
佐藤:効率的な走りをしていなかったからです。必ず最後の100mで失速していて、そうなる要因として、前半でかなり力を使ってしまっていると判断しました。楽に走るということは、フォームがしっかりしているということだと思うんです。しっかりしたフォームで最後まで走りきることを意識し始めました。特に海外選手は最初の100mから、最後の100mまで動きが変わらないというか、形が変わらないので最後まで失速を抑えられている。私はそれができていないとずっと思っていたので、昨年の冬は、そこに重点的に取り組みました。