元総理と前の総理が31日夜、都内のレストランで会食しました。会食で2人の総理経験者が交わした内容が一気に駆け巡ります。この会合を通じて安倍元総理、菅前総理は誰に何を訴えたかったのか?後藤部長の解説です。

後藤部長:
きょうは政治家の夜会合について話をします。
31日のことですが、安倍元総理が菅前総理と夫人を交えて会食を行いました。

――やはり元総理と前の総理が会食するというのは、注目されますね。

後藤部長:
2人ともいまの現職の政治家です。安倍さんは自民党最大派閥の安倍派会長で、菅前総理は派閥は作っていませんが党内で勉強会の立ち上げを目指しています。
いずれも総理をやめたけど野心もある2人の政治家が顔を合わせたわけですから、何を話したのかかなり注目されることは確かです。

――総理経験者が直接会って何を話したのか気になるところですが、この会合についてTBSのニュースでは次のように伝えています。
“関係者によれば安倍政権・菅政権で急拡大したインバウンドについても話題になり、いまの円安のメリットを生かすためにも早期に再開すべきとの考えを共有したほか、安倍氏が「菅派を作れば人が集まるのではないか」と話題にしたところ菅氏は「これまで派閥の弊害を批判してきた」として慎重な姿勢を示した”とかなり詳しい内容が出てきています。詳しい内容を明かした関係者の存在や、この裏にはどういう狙いがあるのでしょうか。

後藤部長:
政治家の会合はいろいろなパターンがありますが、今回の場合は関係者がかなり雄弁に語っています。おそらく関係者もこの会合に出席していたかよく知っている人間が関係者として話をしているのですが、こういった関係者がよく話す会合は実は“こういう会合をやっています。そこでこういう話をしています”ということを広めたい意図があります。今回のケースに関して言えば特定の人物にメッセージを発したいんだという意図もうかがえると思います。

――特定の人物にということはわかるのですか?

後藤部長:
ズバリ岸田総理だと思います。

――岸田総理に向けての発信と?

後藤部長:
見えてくるのは話の内容です。「アベノミクス」は円安が一つのメリットになっていた。31日の会合でも“円安のメリットを活かすためインバウンドを再開せよ”とか“菅さん派閥を作ったら人集まるよ”みたいな話は意図があると思います。
一つは安倍さんが力を入れてきた“アベノミクス”を進めて行けという話です。つまりいま政権を担っている岸田さんに引き続き“アベノミクスの継続よろしくね”というメッセージ、あるいは牽制とも取れる動きです。安倍さんの最近の言動を見ますと原油高や円安による物価高、 31日に補正予算が成立しましたが物価高をどう抑えていくかが狙い。一部で円安の要因の一つと目される金融緩和について引き締めを求める動きがあります。これはアベノミクスの部分否定にもなりますから、それについて安倍さんは警戒しています。最近話題になった「日銀は政府の子会社」発言も金融政策で物価高を抑えるのは間違っているということを言いたかったものでした。岸田さんを相当意識したものだと言えます。

――会合の相手が菅さんだったということも意味があるのでしょうか?

後藤部長:
安倍さんの相手が菅さんであったことはこの会合の最大のニュースバリューなんだと思います。
安倍さんと菅さんは総理と官房長官ということで強固な連帯関係がありました。2021年9月に菅さんは自民党総裁選への出馬を断念した背景には、菅さんは本音では総裁選の前に衆議院を解散して総選挙を行いたかったわけです。しかし安倍元総理らの反対によって断念せざるを得ませんでした。そういった意味で安倍さんと菅さんのあいだには二人で内閣を支えていた時と比べて“すきま風”が吹いているのでは?という見方もありましたが、そうした見方を打ち消したいという意図も会合の要因としてあったと思います。しかしもっと重要なのは菅さんと岸田さんの距離感だと思います。

菅さんが総裁選に出られず総理をやめざるを得なかった要因の一つには、岸田さんが総裁選に出ました。あの時、菅さんは二階幹事長らに支えられていましたが二階さんが5年以上幹事長を務めていた。それを意識して“党の幹部の任期を3年までとする”ことを公約にしたために困った菅さんは二階さんを幹事長から更迭せざるを得なかったわけです。それがきっかけとなり、菅さんは出馬断念となった。そうしたことから菅さんは岸田政権に対しては厳しい姿勢で臨んでいて、距離があります。そういった岸田さんに厳しいであろう菅さんと安倍さんが食事をして“アベノミクスを継続よろしくね”というメッセージを発したかったのではないかなというのが私の見方。

――安倍さんも菅さんを通さず直接言えばいいのに、という気もするが安倍さんの狙いは?

後藤部長:
政治家は独特なレトリックがあります。直接言うと抜き差しならなくなるということと「あの二人何を話しているんだ」となりますから、間接的にこういう形で会合をやります。こういう話をしましたとか派閥の総会で岸田さんが考えている政策について「こうするんじゃないか」と。まあ防衛費も「大幅に増額する」と岸田総理が発言したときにも安倍さんは「6兆円の後半になるのではないか」と岸田さんの側から見ればかなり高いボールを投げられているということだと思う。自分が考えている中で安倍さんが具体的なものを示してしまえばやりづらいことになる。今回の会合に関しては参院選挙後を見据えた行動でしょう。

――参院選挙ではなくてその後?

後藤部長:
参院選挙が終わればしばらく大きな国政選挙はないであろうと。場合によっては3年ぐらい行われないのではないかと。参院選を乗り越えられれば“黄金の3年”となる見方もあります。
その中で焦点となるのは憲法改正をどうするかだと思う。安倍さんも防衛費と並んで憲法改正に非常に意欲を持っている。自民党としては党是として憲法改正を掲げていて岸田さんもそれについて意欲を持つでしょうが、安倍さんとしては憲法改正に岸田さんがどれぐらい本気なのか?ちょっとわからない懐疑的な部分もあると思います。岸田さんから見れば距離のある菅さんと安倍さんが仲良くする。そこでいろいろな話のなかで「菅さん派閥作ったらもっと大きくなるよ」ということは、岸田さんから見れば自分のライバルがもっと大きな勢力を作ってしまう。それを「頑張れ」と応援しているともとれるのが安倍さんの言動。おそらく岸田さんは“心中穏やかならざる”というのが本当のところだと思う。

――岸田総理は今後どう打っていくとみているのか?

後藤部長:
岸田さんも気にしているのでいろいろなことは調べると思うが、岸田総理の政治手法を見ていると静観するのだと思う。あの手この手を使っても解決しないということはあるのでしょう。岸田さんとしては参院選挙を行って成果を上げていくということに集中していくのではないかと思う。

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後藤俊広
TBSテレビ 報道局政治部長

小泉純一郎内閣時から政治報道に携わる。郵政民営化を巡る自民党の小泉VS民営化反対派の闘いや自民→民主、民主→自民の2度の政権交代などを現場記者として取材する。趣味はプロ野球観戦で中日ドラゴンズの落合博満元監督を取り上げた「嫌われた監督」が座右の書

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