ヨーロッパ最大級の氷河の下に活火山がいくつも点在していて、噴火すると白い氷の平原に巨大な赤い火柱が立つという不思議な景観が現れます。アイスランドは北大西洋に浮かぶ島国で、ふたつのプレートの境目にあるため火山活動が活発。一方、北極圏という寒冷地でもあるため、火山と氷河が共存できているのです。

ヨーロッパ最大級のヴァトナ氷河
氷河の下の火口から吹き上がるガス

世界遺産になったのは2019年と比較的新しく、登録されたときの正式名称は「ヴァトナヨークトル国立公園―火と氷の絶えず変化する自然」。この名称通り、火と氷がさまざまな表情を見せてくれるのですが、中でも他に類を見ない現象が「火山と氷河が起こす洪水」。火山の噴火が氷河を解かし、それが洪水となって流れ出すというものです。

火口
火口付近の湖
洪水で冠水した平野

2019年の、新しい世界遺産を決める国際会議「世界遺産委員会」に私も参加していたのですが、そこでヴァトナヨークトルの洪水について初めて聞いたときは、「火山と氷河で洪水!?そんなことが本当に?」とビックリしました。これまで見たこともない現象で、すぐにでも撮影したいところだったのですが、コロナ禍の時期になってしまい延び延びに・・・ようやく去年から撮影を進めることが出来て、4年目にして放送にこぎつけることが出来ました。

担当したベテラン・ディレクターはこれまでいろいろな世界遺産を手がけてきたのですが、ヴァトナヨークトル国立公園を撮影して「世界にはまだこんなところがあったのか・・・」と感嘆していました。

世界遺産になるための条件のひとつに、「地球がどのように形作られてきたか、その歴史の証し」というのがあります。地下のマグマが噴火によって噴き出して新たな大地や山を作り、高い山に降り積もった雪は氷河となって流れ出し、大地や山を少しずつ削りながら流れて地形を変えていく・・・今回紹介した火山も氷河も、こうした地球の歴史を物語る代表的な例として世界遺産になったのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

吹き出す火山ガス