顔が見える識別顧客7割。デジタルで購買行動を徹底的に分析
不特定多数の顧客「マス」から1人1人の顧客である「個」にアプローチを変える戦略が会員数の増加を促し、売り上げを底上げしている。これまでの三越伊勢丹のクレジットカード会員270万人に加え、3年前から開始した専用アプリのネット会員を合わせると590万人に拡大。識別顧客つまり顔が分かる顧客が今では、伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店の売り上げの約7割を占めるという。

識別顧客の割合が増えていて、2019年度は50%だったのが22年度は70%に増えた。
――年間100万円以上買っている人が50%もいる。
三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
ここ何十年も識別顧客が大体50%程度だったのが、この数年で70%に急激に上がりました。お客様の何が欲しいのかを提案することによって、たくさん買っていただけるようになったと。具体的に言うと1000万以上買っていただいているお客様は、この3年間で3倍に増えました。
――1回つかんだ顧客を離さないようにしていくと。
三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
そうです。インバウンドを除くと、売上高で8割の方々の購買が当社はわかっているという状態になっています。
――カード会員やアプリでデータが取れるからだろうが、そこに適切にアプローチしているということか。
三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
外商と外商ではないお客様に分けると、外商のお客様にとっては、今まではお客様1に対して当社の販売が1でした。これを1から複数にしようということにしています。外商の販売員をチーム制にしたり、バディを組んだり、はたまた、バイヤーがそこに組み込んでいったり。
――店側が1で複数の顧客をITで見るというのではなく、1人の顧客に複数の人が付く。それはなぜか。
三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
お客様の新しい顧客体験をどうやってさせるのかと。本質的な数字だけ見ると、外商売り上げはここ数十年シュリンクしてきました。新しいことをどうやって提案するのかというところがミソかと思っています。デジタルを使って、お客さんの購買行動を徹底的に分析して、何をご提案するとお客様に響いていくのかということまでやっています。
――新しいツールを使うことでマスから個へアプローチする。しかもストーリーを持った提案ができるようになってきていると。
三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
まさにマスから個への意味合いは、全てのお客様を対象にしながら、一度当社で買っていただいたらそのお客さんを全て個にするという意味です。マスから全て個にしたいということの表れです。
――1000万円以上とか、年間100万円以上とか言われると、伊勢丹は富裕層しか相手にしていないと思いがちだが、そうではないわけだ。
三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
全てのお客様のこだわった消費を、高感度で上質な消費を当社に選んでいただくという状態にしたいと思っています。

全国で見ると百貨店の売上高はマイナスに歯止めがかかっていない。2022年は4兆9812億円で回復傾向にはあるが、コロナ前にはまだ戻っていない状況だ。ピークだった91年の9兆7130億円と比べると、約半分ほどになっている。
――バブル期の半分になってしまった。反転させていくカギはどこにあると見ているか。
三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
大きな消費の環境で言いますと、競合が非常に増えたということだと思います。百貨店以外にも新しいショッピングセンターができたり、ECが台頭したり、カテゴリーキラーができたりということで、消費動向はお客様の買い方がどんどん進化をしていると。この進化にどうやって合わせてお客様の心の中に入っていくかというのが百貨店の目指すところかと思っています。
――百貨店が生き残っていくためには、一定の人口分布も必要になってくるのか。
三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
それを何とか解決すべくデジタルで商品を地域にご提案するネットワークも作っています。
――百貨店ビジネスのカギは情報にありそうだ。
三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
まさに人の力とデジタルの力と両面を上手に使いこなすということだと思います。
(BS-TBS『Bizスクエア』 7月1日放送より)