百貨店業界が長年苦境を強いられる中、伊勢丹新宿本店がバブル期を超える過去最高の売り上げを記録した。三越伊勢丹ホールディングスの細谷敏幸社長にV字回復を実現した戦略について聞いた。

伊勢丹新宿店の強さのカギは「マスから個への戦略転換」と「高感度上質戦略」

三越伊勢丹ホールディングスグループ全体の2022年度の売上高の総額は、前年比19.3%増の1兆884億円と3年ぶりに1兆円を超えた。中でも、伊勢丹新宿本店の売り上げは3276億円と、1991年度のバブル期の売上高を更新し、過去最高となった。

――コロナのときは大変だったが、今、だいぶ顧客が戻ってきている。

三越伊勢丹HD 代表執行役社長 細谷敏幸氏:
コロナのときは店を閉めなくてはいけないという状況にまでいきましたので、今本当にありがたいと思っています。

2022年度の三越伊勢丹グループ全体の営業利益は前年から約400%増の296億円、最終利益も162%増の323億円となっている。

――営業利益は400%増で、その前にいかに苦しんだかということの表れでもあるが、顧客の戻り具合は?

三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
2022年に比べると非常に良い数字ですが、コロナ前に比べると、まだ80%台という入店客数です。

――売り上げはコロナ前をもう上回っている。富裕層とインバウンドが大きいのか。

三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
富裕層のお客様にたくさん買っていただいているのはもちろんですが、それぞれのお客様と深く付き合えたことで、1人当たりの単価が上がっていると思っています。

――旗艦店である伊勢丹新宿本店の売上高がバブル期を抜いた。なぜ伊勢丹新宿はこんなに強いのか。

三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
もちろんいくつか理由があると思いますが、「マスから個への戦略の転換」と「高感度上質戦略」の打ち出しの大きく二つあると思っています。

――高感度上質はバイヤーの目利きの力が強いからなのか。

三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
もちろん目利きの力もあると思いますが、全てのお客様の高感度で上質な消費を徹底的にこだわった商品とこだわったサービスで狙うのだと。一生に1回でもいいから来てください。月に1回ブランド物を買いたいときは伊勢丹に来てください。こういう考え方のもとで提案をしています。目利きの問題、それからブランド側との話し合いをしっかりした結果だと思います。

――店作りにも工夫があるのか。

三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
環境の統一性やブランド側の環境と伊勢丹の環境をいかにミックスするかということで、世界的にこういう関係はないのだと。これもこだわりの一つだと思っています。非常に著名なデザイナーと一緒に店を作り上げて、なおかつラグジュアリーブランドのトップたちとこんなことをしたいのだという話をしっかりして、あの環境が出来上がります。

――ブランドや出店側にしてみると、ここは自分の領地なのだから好きにやらせてくれよと。それをやらせないというのも大変な努力では?

三越伊勢丹HD 細谷敏幸社長:
そうですね、三越伊勢丹側のコンセプトと熱意が絶対必要です。