「どちらが勝っても台湾は廃墟になる」

ただ、中国と台湾の軍事力を比べるとその差は歴然だ。そのため、台湾政府はアメリカから5億ドル(約700億円)の武器を無償で譲り受ける交渉を続けている。

そうした動きは中国を刺激するだけだと警鐘を鳴らす人物がいる。政治経済に関するオピニオン誌を発行する紀欣編集長。

中国との統一を強く主張する統一派政党の元議員でもある。

紀欣 編集長:
「今お互いは仲良しな家族とは言えませんが、完全に縁を切るのは難しい話です。経済、文化、社会の面から融合していく。個人的には最終的に平和的な統一を望みます」

ーーこれだけ自由と民主主義を享受している台湾が、一度も統治したことのない中国共産党によって統一されて、その統治下にはいるっていうのは、一般の台湾の人にとっては受け入れがたい考え方だと思うんですけど

紀欣 編集長:
「そう考えている人は多いと思います。でも、中国の人口は14億で、台湾は2300万です。独立は全ての中国人に関わることであって2300万人だけでは決められません」

両親は、戦後に中国大陸から台湾に移住した人たち=台湾でいう「外省人」だ。統一を願う2世や3世も少なくない。

軍備増強よりも、双方が納得できる方法で対話により統一に導いていくべきだと強調する。

紀欣 編集長:
「本当に何かあれば、アジア全体に被害が及びます。もちろん台湾は主戦場です。どちらが勝っても台湾は廃墟になります」

「育て、依存させ、殺す」 中国のやり方を“養套殺”と表現

一方で、中国との対話は困難だと実感した青年がいる。

陳聖文さん(25)。もともと中国との積極的な交流を支持する“親中派”だったが、今はそうではない。

台湾大手の葬儀会社を営んでいて、中国で事業を展開していたこともある。

陳聖文さん: 
「これは当時の資料です」

一時は中国に40近い拠点があったが、今は完全撤退した。そのきっかけは、中国当局からの突然の通達だった。

陳聖文さん:
「突然中国の当局から通知を受けて、我が社は違法だと指摘されたんです。通知書類には、何の法律に違反したか一切書かれていませんでした。中国に進出した頃はとても順調に事業展開できたのに。当時は台湾の企業家の進出を推し進めていて、とてもスムーズだったんです」

なぜ、対応が急に変わったのか。その背景には、台湾の政権交代が影響しているとみられる。

陳さんの会社が中国に進出した10年前は中国と融和路線をとる国民党の政権だった。

一方、違法と通知があったのは中国に対して強硬姿勢を取る民進党政権下の時期だ。

中国が突然態度を変えたケースはこれだけではない。台湾産のパイナップルもその例だ。台中関係が良好な時期には輸出先の9割を中国が占めたが、関係が悪化し始めると「害虫がついていた」との理由で取り引きがストップした。

行き場がなくなったパイナップルを買い支えようという動きが日本で広がった。

こうした中国のやり方を台湾では“養套殺(ようとうさつ)”と表現するという。その意味は、「育て、依存させ、殺す」というものだ。

陳聖文さん:
「もし台湾やほかの民主国家だったら、政府は一定の告知期間をおいてから方針を変えるのに、中国ではそういうことが一切なく、一瞬ですべてを覆してしまうんです。郷に入っては郷に従えと言われました。中国と対話することは不可能です」

陳さんは国民党の党員だったが、その後は民進党に入党し、公認候補として地元の市議選にも立候補した。

ーー陳さんから見て、中国と台湾の違いってなんですか?

陳聖文さん:
「社会のルール、民主的な制度。これが一番貴重で大事なところです」

独立派、統一派、主張は分かれるが「ただちに独立」「ただちに統一」と急激な変化を求める人は、実はわずかで、ほとんどが「現状維持」を支持している。