日本の男子110mハードルがレベルの高さを見せた。布勢スプリントは25日、鳥取市布勢のヤマタスポーツパーク陸上競技場で、グランプリ種目は男子が100mと110mハードル、走幅跳、女子は100mと100mハードル、走幅跳の計6種目が行われた。8月の世界陸上ブダペスト標準記録突破者が現れたのは男子110mハードルで、優勝した野本周成(27、愛媛陸協)と2位の高山峻野(28、ゼンリン)が、標準記録と同じ13秒28(+1.1)をマーク。野本は日本選手権決勝を途中棄権したため、代表は日本選手権3〜6位選手が世界陸上出場資格を得られるかどうかで決まる。高山は昨年すでに13秒10と標準記録を突破し、日本選手権2位の結果で代表入りが決まっている。

高山が世界陸上に平常心で臨むことを強調

男子110mハードルは、日本のレベルの高さを示す結果になった。

高山選手


昨年13秒10(日本歴代2位)と標準記録を大きく突破し、今年6月の日本選手権では優勝(13秒04・-0.9=日本記録、今季世界4位)の泉谷駿介(23、住友電工)に次いで2位(13秒30)。世界陸上代表を決めている高山が同タイムではあるが、泉谷以外に敗れたのは予想外だった。

だが高山は「野本君が強かった。賞賛するしかない」と、1学年下のライバルの強さを認めた。

高山自身は日本選手権で代表を決めた後、7月のアジア選手権をステップに、8月の世界陸上にピークを合わせている。「ここには調整していないので、13秒5台が出ればいいな、と思っていました。13秒2台が出ると思っていませんでした」

昨年の世界陸上オレゴンの記録レベルを確認しておく。準決勝の着順通過は各組2位までで、13秒31(-0.6)が通過した選手の最低記録だった。各組3位以下のタイム上位2人も決勝に進んだが、13秒22(+2.5)の選手が2番目だった。布勢スプリントよりも少し状態を上げられれば、世界陸上の決勝進出も可能なレベルにいる。

いかに世界大会で持っている力を出し切るか。そしてそのためには、何をすればいいか。

その質問に「普段と変わらずにやることです」と高山は答えた。「気負ってしまったらレースがバラバラになるだけです。普段通りでいい」

ブダペストの目標を「自己新記録」だと言う。

「自己記録(13秒10)更新も無理と思いますが、(目標は)自己記録更新と言っておかないと、目標のない選手と思われてしまいますから」

高山は平常心を、独特の考え方で維持しようとしている。

19年世界陸上ドーハ大会では、予選は全体で5番目の13秒32で通過。決勝進出可能な記録だったが、準決勝は13秒58に終わった。予選と同じタイムを出せば決勝に行けたが、ハードルに接触して減速した。序盤を過去最速スピードで走ったが、気負いもあった。

もとから飄々とした考え方で強くなってきた選手だが、決勝が期待できるブダペスト大会を前に、無欲スタイルを徹底させている。

標準記録突破の野本が示した日本のレベル

1台目までは高山と野本が並んでいたが、3台目以降は高山がリードした。実績で勝る高山がそのまま逃げ切ると思われたが、終盤で野本が追い上げ、10台目を越えてから逆転した。野本は自身のTwitterに「ハードルヘタクソなので最後のスプリントで押し切りました」と記した。

スプリントは純粋な短距離のスピードのこと。110mハードルの歴代上位選手の100m自己記録は以下の通りだ。

▼110mハードル日本歴代上位選手の100m自己記録
13秒04(‐0.9)泉谷駿介 10秒37(+0.7)
13秒10(+0.6)高山峻野 10秒34(+1.0)
13秒16(+1.7)金井大旺 10秒41(-0.6)
13秒25(+0.3)村竹ラシッド 10秒68(+0.2)
13秒28(+1.1)野本周成 10秒36(+0.6)
13秒36(+0.8)石川周平 11秒06(+0.3)
13秒39(+1.5)谷川聡 21秒47(-0.3)※200m

野本は日本歴代1、2位の泉谷、高山と同レベルのスプリント能力がある。自身の特徴としてまず「脚が短いところ」と冗談交じりに答えたが、「陸上競技に真摯に取り組み、ひたむきにやっているところですかね」と付け加えた。

野本選手


「タイムに関しては想定以上ですが、13秒2台は準備ができれば出せる雰囲気はありました」

故障が多い選手で、今年も2月と5月にケガがあった。日本選手権は故障が明けてから時間がなかったが、3位以内に入らなければ世界陸上代表は難しくなる。かなり強引に勝負に行ったのだろう。「スタートで行き過ぎてしまった」ために、1台目でハードルにぶつかり転倒してしまった。

それに対して今大会は「1カ月準備する時間があり、それがタイムにつながった」と自己分析する。

「レースプランは冷静に走ることでした。前半で前に出られても、冷静に追いました」

標準記録に到達したので、世界陸連が定めた世界陸上出場資格は得た。しかし日本陸連が設定した選考規程では、日本選手権3位以内の選手が出場資格を得た場合は、日本選手権3位以内の選手が代表入りする。

すでに泉谷と高山が代表に内定済み。日本選手権3位の横地大雅(23、Team SSP)は6月25日時点でRoad to Budapest 23(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)が47位で、この種目のエントリー人数枠の40人に入っていない。しかし同4位の石川周平(28、富士通)がRoad to Budapest 23で23位と圏内にいる。野本が代表入りできるかどうかは、横地と石川の今後の動向次第となる。

それにしても、日本の110mハードルが楽しみな種目になった。標準記録を4人が突破し、そのうち野本と日本選手権を欠場した村竹ラシッド(21、順大)が、代表になれないかもしれない。日本の110mハードル界は過去最高レベルに達している。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)