三浦が世界トップレベルのラストスパート

ラスト1周が別次元だった。
三浦はスタート直後に先頭に立つと、1周68秒弱で正確に刻み続けた。三浦にとっては若干のスローペースだが、他の選手にとってはそこまでスローではない。スローになってラストだけの勝負になると、チームメイトたちの意見も聞き、順大が得点を取るには不利と考えた「(順大の)他の2選手も乗りやすいペース」でレースを先導したのだ。
しかし今の学生選手は全体的にレベルアップしている。松永伶(法大3年)が4100mで猛烈なスパートを見せた。松永は過去2年間、学生三大駅伝(出雲、全日本、箱根)に出場経験がない。ここまでのペースチェンジをするとは予想できなかった。三浦以下に10m以上の差をつけ会場をどよめかせた。
しかし、三浦は慌てなかった。
「確信があったわけではありませんが、射程距離だと思っていました。ラストのスピード、キレの自信も付けてきていましたし」
三浦は残り1周、4600m地点で切り換えると4750mで松永を逆転。2位に上がったムサンガ・ゴッドフリー(駿河台大1年)に5秒34の差をつける圧巻のスパートだった。「順大に入って一番伸びたのがスピード、キレの部分です。切り換えるギアの段数も増えて、距離を追うごとに成長、レベルアップしています」。
ラスト1周は54秒後半。厳密なデータはないが、おそらくラスト1周の日本選手最速タイムだろう。世界を見たときラストに強い選手は、53秒前後でラスト1周を走っている。だがそれは金メダルを取る選手のタイムで、54秒台でも入賞できる。そして三浦の本職の3000m障害で、ここまでのスパートができる選手がいるかどうか。

順大の長門俊介駅伝監督に「世界に近づいたのでは?」と問いかけると「今日の上がり(ラスト)も異常といえるレベルです」と、三浦の予想以上の成長を認めていた。
今季は1500mを日本歴代2位で走り、織田記念の5000mではこの種目の東京五輪代表たちと揉まれるレースに勝ちきり、今大会5000mでは世界レベルのラストスパートを見せた。3000m障害でもゴールデングランプリでラスト1000mのスパートで2位に大差をつけている。
専門外の種目や、多くのレース展開を意図的に経験し、どのレースでも高いレベルの結果を残してきた。6月9日からの日本選手権も、五輪&世界陸上と同じレベルにはならないので、何かテーマを絞って走るのではないか。そして今季の三浦が総合的に付けた力を集中して発揮するのは、7月の世界陸上オレゴンになる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)