ベテラン勢が今後を期待できる活躍を見せた。陸上競技の第107回日本選手権が6月1〜4日、大阪市ヤンマースタジアム長居で行われた。男子やり投では31歳のディーン元気(ミズノ)が82m65の好記録で優勝。2位にも同学年ライバルの新井涼平(31、スズキ)が80m60で入った。女子100mハードルでは33歳の寺田明日香(Japan create Group)が12秒95(-1.2m)で優勝。やり投2人は85m20、寺田は12秒78の世界陸上ブダペスト参加標準記録を突破すれば代表が決まる。標準記録が破れなかった場合でもRoad to Budapest 23(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)で男子やり投は36人、女子100mハードルは40人のエントリー人数枠に入れば代表に選考される。

5投目で助走歩数を増やしたディーン

日本選手権は直前に発熱があり、完全なコンディションではなかった。1投目の80m27でリードしたが、その後は標準記録(85m20)も意識して、飛距離を狙いに行った。だがそのための技術がなかなかできない。新井と崎山雄太(27、愛媛陸協)が77m、78mと徐々に記録を伸ばしていた。

「80m27のままだと抜かれる確信もありました。5投目で切り換えて82m65まで記録を伸ばし、勝負を決められましたね」

実際、新井が6投目に80m60を投げてきた。5投目がなければ逆転されていたのである。ベテランらしさを発揮しての優勝だった。

ディーンが重点的に意識しているのは「やりを担ぐ」こと。助走の最後、投げに入る局面で自身が持つやりの下に入り込み、縦の回転に近くなる動きでやりを投げる。

「1投目はもう少し担げるかと思ったのですが、助走が思ったより走れてしまいました。(ファウルとなる)ラインに近くなって、腰を少し引いて投げる形になってしまった。スッとやりの下に入り込めたら、投射角度も大きくなって、高く上がるやりになるんですけどね。それができれば85mも確実に超えられます」

ディーン自身も「一発を狙った助走で走ってみた」と話している。思い切り行きすぎた助走になったのだろう。2投目は78m01、3投目&4投目は連続ファウルと記録を伸ばせない。そのままでは逆転されると判断し、ディーンは投げ方を変えた。

「助走の歩数を増やして、リズムを使って投げました。やりの角度はたぶん低かったと思いますが、(前方向への)エネルギーがあって飛んだのだと思います」

ディーンは助走の歩数を10歩、12歩、14歩と、いつでも変更できるように練習している。「世界では何人もやっていることです」と謙遜するが、試合中の歩数変更は簡単ではない。それを日本選手権で勝つことを優先して、パッと切り替えられる。ディーンがベテランの妙味を見せた試合になった。