寺田のメンタル的な落ち着きに標準記録突破の期待
女子100mハードルの寺田は、メンタルの安定度が優勝につながった。12秒台5人が争う日本選手権史上最高の激戦にも、自分を見失わずに勝ちきった。
1、2台目は左隣の青木益未(29、七十七銀行)と並んでいたが、3、4、5台とじりじり前に出た。6〜10台目も差をキープしたが、最後の10台目を降りてから、青木と田中佑美(24、富士通)に追い込まれた。
だが、その状況でも寺田に焦りはなかった。
「競った中でも冷静にいければいいのかな、と思っていました。スプリント(純粋な短距離のスピード)を頑張って強化してきました。10台目降りて並んでたら負けない、っていう気持ちはずっと持っているので、最後、やっぱり追い込まれましたけど、その状況でも勝ち切れたのはよかったですね」
向かい風1.2mで12秒9台なら、適度な追い風なら12秒8前後が期待できる。だが寺田自身は「不満」だという。その理由の1つが「タイミングがちょっとずれていた」ことにある。
「一瞬(力が)抜けちゃう動きになって、“戻せ戻せ”って思いながら走っていました」
その際に、この冬から取り組み始めた「お腹でコントロールする」ことを意識した。他の選手との比較でいえば差を詰められたりもしたが、寺田自身の中では崩れていくのを防ぎ、多少なりとも立て直すことができた。それも競り勝てた一因で、メンタルが落ち着いていたからその対処ができた。
6月16日時点でRoad to Budapest 23は35位。今後のレース結果次第で可能性はあるが、寺田は「(12秒78の世界陸上参加)標準記録を切らなければ行きたくない気持ちがある」
その一方で「例年、条件の良くなる布勢スプリント(6月25日)あたりで出ればいいな。あっさり出る記録でしょう」という期待も自身にしている。
普通の選手であれば、期限内に標準記録を切らなければ、という焦りがあると、記録は出せないケースが多い。だが今の寺田のメンタル的な落ち着きなら、本当にあっさり標準記録を出してしまう可能性がある。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)