細い土の道を進むとひっそりと佇む平屋の住宅が見えてきた。まだ外にいるというのに動物の匂いが漂っている。何十匹もの生命が混ざり合う独特の騒音が、静かな郊外に響く。世話できないほどのペットを飼う人は昔からいる。過剰な愛護意識や収集嗜好、孤独の緩和を求めるためなどとされている。多くの場合、不衛生な環境によりペットの命は軽んじられる。エスカレートすると、飼い主は自分では手に負えないという現実と向き合うことも困難になる。行き着く先は、私たちが想像する「ペットとの共同生活」とはかけ離れた特異な世界だった―。
◆小屋で暮らす女性、「野生化」した猫

「猫ちゃんおいで、おいで!」無造作に置かれた材木の間に三毛猫を認めるや、くしゃっと顔をほころばせたのは、佐賀県に住む84歳の女性だ。取材カメラをかつぐ私たちに何度も頭を下げ「ごくろうさんです」とねぎらった。この日、私たちは犬や猫の保護活動を行うNPO法人「アニマルライブ」と一緒に女性の自宅を訪ねた。
アニマルライブ・岩崎さん「多頭崩壊のところはみんな野生化してしまい、人慣れしていない猫がすごく多い。それだけ手をかけられないのです」
「猫は人の声と足音がすると逃げてしまう」と話す女性は、小屋に住んでいる。母屋が火事で全焼したからだという。年金生活で母屋を建て直す経済的な余裕がなかったのだ。部屋に上げてもらうと、いつでも猫が食べられるように餌が置かれていた。この餌は、全国から寄付され、NPOの岩崎さんたちが定期的に届けているものだ。
84歳の女性「餌を持ってきてもらったときはびっくりした!もらってもお返しもできずに気の毒ですよ。猫は人間よりかわいい、人間はやぐらしか(面倒、わずらわしいの意味)。私がまだ達者ならいいけど、弱っているから。我がごとより猫が心配」

家族は“小屋”に近寄らない。女性は「孤独に過ごしている」と吐露する。そして“我がごとより心配な”猫は増え続けている。居間には段ボールやスーパーの袋が積み上がり、床が見えない場所も多い。棚状になった一角から、黒い子猫がカメラのレンズを見つめていた。最近生まれたのだろう。NPOの岩崎さんは子猫の数が気がかりだ。
岩崎さん「子猫が何匹産まれているかまだわからない。少なくとも25、6匹います。今のうちに減らすなり避妊・去勢の手術をするなりしておばあちゃんの負担をできるだけ軽くしていかないといけない」