◆驚くほどの猫の繁殖力、3年で1→2000匹に増えることも

環境省によると、猫は1年に2~4回出産し1回に4匹~8匹の子猫を産む。ほぼ100パーセントの確率で妊娠するため、1匹のメス猫が1年後には20匹以上、2年後には80匹以上、そして3年後には2000匹以上になると言われている。猫の避妊手術は地域や獣医師によってまちまちだが、おおむね2万~3万円ほどが相場だ。決して安くはない金額だが、避妊手術がある意味「岐路」になる。
岩崎さん「飼い主さんによっては避妊・去勢の手術代が出せないとか、お金を使うのがもったいないという人もいて、そのままの状態でどんどん増えてしまう」

取材した佐賀県のNPOにはこの2か月間で「多頭飼育崩壊」の相談が10件寄せられた。いずれもひとり暮らしの高齢者からだ。経済的な困窮が原因とみられている。これまで団体は、山などに捨てられていた犬や猫を保護して里親を探して譲渡したり、高齢で介護が必要な場合は積極的に受け入れたりしてきた。しかし、ここ数年は「多頭飼育崩壊」で保護した犬や猫だけで150匹を超える。
岩崎さん「結局、手に負えなくなった時に保護団体に連絡してきて助けてくれということなんですけど、飼い主さんの尻拭いをずっとさせられている状態」
飼い主に対する“怒り”や“悲しみ”はもちろんある。それよりも、放置されるペットが不憫だ。ペットの命の重みとは、ペットの幸せとは何なのだろうか、自問しない日はない。そう説明する岩崎さんの腕に抱かれた犬もまた「多頭飼育崩壊」の現場から保護された犬だった―。
◆汚物が放つ悪臭の家にいた84匹の犬

飼っていたのはひとり暮らしの80代の男性だった。保護した時は「瀕死」の状態だったことを岩崎さんは鮮明に覚えている。
岩崎さん「この子はフィラリア(寄生虫が起こす病気)の予防薬を全然飲ませられてなかったので、病気が末期でお腹がパンパンに膨れていて、腹水がたまっていた。そこからレスキューして病院で治療した。飼い主のおじいちゃんは寂しいから飼われていましたが、ただそれが犬たちにとって本当に幸せかということですね」

適正に飼育ができない「多頭飼育崩壊」。保健所には近隣からの苦情が相次ぎ、犬たちは「殺処分」の対象になっていた。岩崎さんが福岡県内の民家で2019年に撮影された“衝撃的”な映像を見せてくれた。そこには何かを訴えるようにカメラを見つめる白い犬が何匹も写っている。絞り出すようなかぼそい鳴き声も聞こえる。悪臭がひどく汚物が放置されたこの民家で飼われていた犬は全部で84匹。60代の女性が1人で飼育していた。