田中は「東京五輪以来」の良い感触も
田中希実は4~5月に米国で1500mを2レース走った。4月29日のアイオワ州のレースが4分13秒17の5位、5月6日のカリフォルニア州の試合が4分11秒10の8位。
「1試合目はタイムも順位も中途半端でしたが、久しぶりに国際レースに参加させてもらえました。楽しさが戻って来ました」
7度という寒さの中で行われたレースで、ペースメーカーに誰も付けなかった。勝負だけのレースになったなか、優勝者と4秒15差の5位は「現時点の力では上手くまとめられた」と、父親でもある田中健智コーチは評価した。

2試合目までの間に4日間だが、フラッグスタッフでニューバランス・チームとともに高地練習を行った。かなり良いイメージでトレーニングを行うことができ、実際、2試合目は田中だけがペースメーカーに付くことができた。ラスト400m付近で後続をいったん追いつかせ、その間にタメを作っていた。
だが残り300mで他の選手と接触してバランスを崩す。転倒しそうになった態勢を、踏ん張って耐えたことでかなりの力を使ってしまった。周りのスパートに合わせたが、「残り200~150mで脚が固まってしまった」(田中コーチ)という。
結果には結びつかなかったが、良い感触を得て帰国した。帰国後の御嶽での高地練習では「今までの練習を超える内容」(同コーチ)ができた。8位に入賞し、準決勝で3分59秒19の日本記録を出した東京五輪のときのようなイメージを持つことができたという。
だが、東京五輪の再現は簡単ではない。初の五輪、それも地元日本開催の五輪ということで、田中の気持ちが最高に高まっていた。上り調子だったこと、周り全員が世界のトップ選手だったこと。いくつもの要素が混ざり合い、夢中でチャレンジできた。一種のゾーンに入っていたのである。
今回のGGPは、3分台の自己記録を持つのは田中1人だけである。4分04秒30のダニエル・ジョーンズ(26、米国)、4分05秒82のヘレン・エカレラ・ロブン(24、ケニア・豊田自動織機)を相手に、どんな心理状態でレースを進められるか。
ペースメーカーは400m通過が1分04秒、800m通過が2分10秒になる予定だ。800m以後のそのペースを維持できれば4分5秒前後も狙える。田中コーチはあまり細かく決めず、田中自身の感覚で走らせる予定だ。
「明日は実験と位置づけて走ります。今の良い状態で次への課題点を見つけ、世界陸上までにそれをつぶしていく」
東京五輪の再現は難しいが、GGPは3年前に田中が1500mの日本記録を更新した最初の大会である。米国、ケニア選手もいてチャレンジする気持ちが強くなるかもしれない。
4分03秒50の世界陸上ブダペスト参加標準記録に届く可能性も、ゼロではないだろう。田中にとっては“東京五輪(予選、準決勝、決勝の3レース)以外の最高記録”へのチャレンジにもなる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※トップの写真は左が三浦選手、右が田中選手(いずれも世界陸上オレゴン)