5月9日、ロシアでは対独戦勝記念日にあたりプーチン大統領の演説や軍事パレードなど恒例の催しが行われた。プーチン氏はロシアの崩壊を狙う西側に対し祖国を守るための戦争であることを強調し、あたかも被害者のようだった。そして規模を縮小した軍事パレードは外国メディアの取材を許可せず、戦車も航空機も登場しない“しょぼい”ものだった。この日のイベントをロシア国民はどんな思いで見つめたのだろうか?ロシアの世論調査機関の分析からロシア国民の意識を読み解いた。

「そもそも何のためにこの戦争を始めたのかと国民が考え始める」

戦争が長引き、重要拠点といわれたバフムトでの戦いは成果が聞こえてこない。逆にまもなくウクライナの大規模な反転攻勢が始まるという噂が聞こえてくる…。ロシア国民はかなり不安になっていると独立系世論調査機関『レバダセンター』の副所長は言う。

『レバダセンター』 グドゥコフ副所長
「4月の世論調査で75%が“戦争を支持しロシアが必ず勝利すると信じている”という結果が出ている。しかしこれは表面的な結果だ。より深い分析をすれば国民はこの戦争によってかなり不安になっていることが分かる。不安が圧倒的に多い。(中略)どんな反転攻勢があるのかわからない。反転攻勢とは単なる戦闘ではなく、弱いウクライナ軍に抵抗できないロシアの威厳に対する攻撃でもある。そもそも何のためにこの戦争を始めたのかと国民が考え始める

ロシア国民には反転攻勢などの情報はほとんど入らないが、SNSやロシア国民が最大の情報源としているという“巷の噂”によって中途半端に伝わることが余計に不安材料となるのかもしれない。

朝日新聞 駒木明義 論説委員
「ウクライナの反転攻勢を心配している人が同じ調査で62%。欧米からの武器供与を心配している人も77%。何より今後難しい局面が来る、これまでより大変なのはこれからと考えている人が過半数いる。どんどん状況が厳しくなっているという受け止めが感じられる…」

元陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「戦争をする時に一番大切なものは、大義なんです。何のためにこの戦争をするのか。そこではプーチンのレトリック・・・、ネオナチ政権を倒すとか、ドンバス2州の住民を守るとか、そんなレトリックは通用しない」

さらにロシア国民の不安を掻き立てる要素が“動員”だという。政府の言う“新たな動員はしない”という言葉を信じている人は少なく、手渡しだった召集令状がオンラインになったことも不安を煽る結果となっていた。

『レバダセンター』 グドゥコフ副所長
「動員は第2回で済むことなく常に行われると国民は思っている。このオンラインで召集令状が送られるシステムによって出国手続きの時に徴兵から逃げようとする人を押さえることが可能になる。徴兵逃れはますます難しくなる」

防衛研究所 兵頭慎治 研究幹事
「不安感みたいなものがロシア国民の中で広がっているのは間違いない。オンライン召集令状による動員というのもあるでしょうが、これに加えて今回のクレムリンへのドローン爆破。これ、ウクライナのテロだってロシア側が断定したわけですが、これによって必ずしも戦場が今のウクライナ領内だけではなくなる。モスクワもですら安全な場所ではなくなることも不安感に影響を与えていると思う」