ロシアの侵攻に、防衛戦を続けるウクライナ。その戦いを見て、かつて日本の自衛艦隊を指揮した香田元司令官はこう言った。

「ウクライナの戦いは“専守防衛”だ」

確かにウクライナは強力に抵抗し、エリアによっては反転攻勢に出ていると伝えられるが、それも基本的にはウクライナ領で行われている戦い、ロシア領土内への攻撃ではない。

この“専守防衛”とは、日本の場合の防衛戦略の基本姿勢を指す言葉だ。有事の際、日本がとるべき姿勢を現在進行形で目の当たりにしている今、私たちはウクライナの戦いから何を学ぶべきか議論した。 

■「ロシアは本土がやられないから何波でも攻めてくる」


日本が選択した戦いの形“専守防衛”とは、どんな戦争なのか、今回のウクライナで起きている事で確認しよう。

香田洋二 元海上自衛隊自衛艦隊司令官
「押し寄せてくるロシア軍を領土内で押し返すのが精いっぱいのウクライナの戦いは、今まで日本が70年間言ってきた専守防衛と同じ図式。大国ロシアは本土がやられないから限りなく何波も攻めてくる。(中略)専守防衛の典型的事例です。特にミサイル攻撃、長距離砲で病院とかを狙った狙わないは別にしても、最終的に国内のインフラのほとんど、コンクリートの建物のほとんどが破壊されるという中で防衛戦をやらなければならない。それが専守防衛なんです」

結局、自国が攻撃されるばかりで、相手はエンドレスに続けられるのが“専守防衛”の戦い。今マリウポリなどの映像に見られるような、悲惨な中での戦いを日本も覚悟するほかないのか?ただし、日本とウクライナでは様々な点で事情が違う・・・。

■「脅威の方程式というのがあって・・・脅威=攻撃する側の能力×意志」


ロシアがウクライナへの侵攻を決断した理由に、アメリカが“NATO加盟国ではない国ウクライナのために軍を動かすことはない”と表明していたことと、クリミアでの成功体験からプーチン氏が“ウクライナは弱い”と思っていたことがあるといわれる。つまりロシアにとってウクライナには“脅威”がなかったのだ。“脅威がなければ攻めやすい”。ここがウクライナと日本の最大の違いだ。

共同通信 久江雅彦 編集委員
「専守防衛といっても日本の場合は日米同盟がある。アメリカが来るまで日本が戦えば、あとは集団的自衛権で日本のためにアメリカが一緒に戦う。(アメリカはどの国にとっても脅威に他ならない・・・)脅威の方程式っていうのがありまして、攻撃する側の能力×意思。いまは意思はゼロですがとにかく米軍は怖い・・・。ウクライナを見て日本もまずいと冷静さを欠くのは良くない」

確かに軍事同盟を持たなかったウクライナに対し、日本は敵に回したら“脅威”そのもののようなアメリカと同盟を結んでいる点で全く違う。

またウクライナともう一つ違う点として、海に囲まれた分、日本に特に欠けていること、備えるべきものがあると香田元司令官は言う。

香田洋二 元海上自衛隊自衛艦隊司令官
「海に囲まれた日本の場合、大陸国であるウクライナのように、ポーランドなど陸続きの友好国を持たないので避難民をどうするのかが大きい。海外に出せない以上、子供や老人をどうするのか。それから自衛隊は、態勢はあるが実戦経験がない。能力は高いんですが、隅から隅まで明日できるかというと・・・。(中略)燃料だけはオイルショックの経験から200日分世界一の備蓄を持っていますが、食料、弾薬の備蓄はどうなのか。ある時にアメリカと一緒になるんでしょうが、何日と想定してやればいいのか。昔はそういう心配すると『自衛隊の考えることじゃない』って怒られましたが・・・安全保障は起きるか起きないかではなく、起きたらどうするかですから今から準備しなければならないし、せめて議論をしておかなければならない」

結局、長く平和が続いた中で日本人は、それほど深刻に戦争について考えてこなかった。

最善策は、外交を駆使して戦争をしないことだと小野寺元防衛大臣は言う。

小野寺五典 元防衛大臣
「今回ウクライナはプーチンの誤解によってこんなことをされてしまった。つまり“ウクライナは弱い”“守ってくれる仲間はいない”、逆のことを言えば“日本は強い”“万が一の時には同盟国アメリカだけじゃなくオーストラリアやイギリス、いろんな国が応援してくれる”そうなったら手が出せないじゃないですか。今回学ぶことは自分たちが強くなること、そして仲間と手を携えること。それが戦争を起こさない一番の方法。起こしちゃダメです」

しかし、小野寺氏は、島国である日本は相手に責められた時は、専守防衛だとしてもウクライナのような戦い方はできず、相手の領内への攻撃も考えなくてはならないと主張する。

小野寺五典 元防衛大臣
「日本は島国です。そうすると最初は飛び道具でドンドンやられてしまう。そうすると反撃するには・・・戦車であれば戦車に対抗するんですが、飛んでくるのは相手の領土からの飛び道具“弾道ミサイル”なんです。だからそこまで届くものを持っていないと食い止めることができないんです。だから、今回そういう反撃能力を持たなければいけないと、難しいですよねと、(自民党で)提言させていただいている。日本が変わったのではなく、戦争の戦い方が変わったのです」