「アマルフィ海岸」が世界遺産に選ばれたのは「美しいから」ではない

時代は下って中世になっても、イタリアと異国との交流は盛んでした。南イタリアのナポリ近くに、「世界で一番美しい海岸」といわれる世界遺産「アマルフィ海岸」があります。30キロほどつづく切り立った海岸線には、パステルカラーの小さな街が点在しており、空から撮影すると確かに美しい海岸です。

その中にアマルフィという街があるのですが、中世、ここは船を造り、地中海貿易で栄えた海洋都市でした。街の中心に建つ大聖堂は、カトリックには珍しい幾何学模様で装飾されています。これはアラブ・イスラム風のデザインで、海洋都市ならではの異国文化の影響を示しています。

世界遺産に選ばれる条件のひとつに、「重要な文化の交流を示すもの」というのがあります。アマルフィ海岸は世界一美しい海岸だから世界遺産になったのではなく、この文化の交流の重要な証しとして世界遺産になりました。同じように古代ローマ遺跡を中心とする「ローマ歴史地区」も文化交流の証しという条件を満たして世界遺産になっています。

世界遺産の数が58と、世界で一番多い国イタリア。それは「地中海に突き出た半島」という地の利が生み出したものでもあったのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤慶太