世界遺産の撮影で各地に行くと、「なぜ、こんな所にこんなものが?」とビックリする建造物に出会います。

イタリア、ローマに建つピラミッドもそのひとつ。あのローマ中心部の道路の横に、高さ36メートルもある巨大なピラミッドがそびえているのです。

ローマに建つ古代ピラミッド

高さ36メートル…!「ガイウス・ケスティウスのピラミッド」

空から撮影すると、古代エジプトのものと同じように白くて四角錐の形をしているのが分かります。これがあるので、最寄りの駅も「ピラミデ駅」と名付けられています。このピラミッドの正体は、2000年以上前に古代ローマの政務官が遺言で作らせた墓で、その政務官の名前から「ガイウス・ケスティウスのピラミッド」と呼ばれています。

ローマに建つ古代ピラミッド

実は、古代ローマでは「エジプト・ブーム」ともいうべき現象が起きていました。このようにエジプトを真似してピラミッド形の墓を建てたり、エジプトそっくりの風景を人工的に作ったりしているのです。風景を作ってしまった最たる例が、世界遺産の「ヴィッラ・アドリアーナ」。

世界遺産、ヴィッラ・アドリアーナの空撮

世界遺産「ヴィッラ・アドリアーナ」には“ナイル川”が

ローマ郊外の街ティヴォリにある、古代ローマのハドリアヌス帝の別荘跡です。こちらも空撮向きの世界遺産で、上空から見ると東京ドーム25個分の広大な敷地に、競技場や大浴場、図書館などが建ち並んでいたのがよく分かります。

ハドリアヌス帝の時代、ローマ帝国の版図は地中海世界全域に広がり、彼は支配下にあったヨーロッパ各地や北アフリカなどを歴訪しました。そのときエジプトで見たナイル川の風景を、ヴィッラ・アドリアーナに作らせてしまったのです。

ナイル川を再現した池

今も残る細長い大きな池がそれで、その畔にはエジプトでおなじみのワニの彫刻が置かれています。ちなみに、ハドリアヌス帝の恋人は美少年で、エジプト視察の際にナイル川で溺れてワニに食べられてしまったとも言われます。

池の畔のワニの彫刻

真似するだけでなく、エジプトから本物をもってきてしまったケースもあります。ローマ中心部のポポロ広場には、高さ24メートルもある巨大な石柱が建っていますが、これはエジプトのオベリスクを運んできたものです。古代ローマ時代に運ばれたオベリスクは他にも多々あり、今では本家のエジプトよりもローマの方が多いといわれるほど。

古代ローマの「エジプト・ブーム」はなぜ起きた?

高度なエジプト文明への憧憬、異国趣味・・・いろいろ理由が考えられますが、イタリアの地理的な条件もあったように思います。ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸に挟まれた地中海は波静かで航行がしやすく、古来、船による交流が盛んでした。

その地中海に長く突き出た半島であるイタリアは、エジプトはもちろんその他の地中海各地と交流がしやすく、さまざまな異国のモノや文化が持ち込まれました。たとえば古代ローマの象徴ともいうべき世界遺産、コロッセオ。空からドローンで撮影するとその構造がよく分かりますが、16階建てのビルほどの高さで5万人が収容できた巨大闘技場は、現代のスタジアムとよく似ています。

上空から撮影したコロッセオ

ここでは剣闘士とライオンなど猛獣との戦いが行われ、市民たちの一大娯楽となっていました。そのライオンもアフリカから船で運んできたものです。

上空から撮影したコロッセオ

ローマ市内を流れるテヴェレ川は地中海につながっているのですが、当時、その河口にはオスティア・アンティーカという交易のための港町が作られました。アフリカやアジアから猛獣を輸入する海運業者の店もあり、ここから川をさかのぼって猛獣はコロッセオに運ばれたのです。

ローマ市内を流れるテヴェレ川
オスティア・アンティーカの猛獣取り扱い店の看板