戦争が終わったら軍事教育は一瞬で消えるが…子どもの頭に残るもの
プーチン氏が若年層の愛国教育を強化する起因として、現在30代40代の働き盛りの年代の中に愛国心が弱いものが多いのではないかという懸念があるという。その世代は、90年代に教育を受け育った。その世代が“失われた世代”であることをロシア政府が気付いたのだと元教師、ワリウリン氏はいう。39歳の彼もまたロシアが西側の価値観を受け入れ経済発展した時期に教育を受けたという。
元歴史教師 ラウシャン・ワリウリン氏
「ロシア政府が予算からお金を盗んで城、ヨット、別荘、プライベートジェットなどを購入している間、彼らは教育制度に注目しなくなった。私は90年代に学んだが、あの頃は民主主義や人権が重視され、ロシアは西側諸国を含め全世界と友好関係を築こうとしていた。学校では法律の授業が導入され“法律が一番”“人権を尊重すべき”と教えられた。それを吸収した私は学校を卒業して20~30年たってもそれを覚えている」
現在軍事作戦を遂行中のプーチン氏は、この時代に教育を受けた世代を恐れだしたとワリウリン氏は言う。
元歴史教師 ラウシャン・ワリウリン氏
「罰金だった処罰は懲役になった。政府は“失われた世代”の存在に気づいて今の生徒たちに政府の方針、軍事イデオロギーを教えることにしたのだ。(中略)戦争が終われば軍事化の要素は学校教育から一瞬で消える。しかし、人の頭からその内容は消えない。子どもたちに数十年の間影響が残る」
90年代の教育も今は昔。愛国心教育のもとでは、子どもの素朴な平和への願いも悲劇のもとになっている。12歳の少女が描いた1枚の絵があった・・・。
小学生の絵で…父親が逮捕も…獄中の父への手紙「私のヒーロー」

その絵には子どもと手をつなぐ母が、飛んでくるミサイルを手で制する仕草。2つの国旗が描かれウクライナの国旗には“ウクライナに栄光を”、もう一方は“プーチン反対 戦争反対”と書かれたロシアの国旗だ。タイトルは「特別軍事作戦」。描いたのは現在13歳になるロシアの少女、マーシャさんだ。この絵を描いたことが少女と家族の日常を大きく変えた。
マーシャさんがこの反戦画を描いたのは軍事侵攻から間もない去年3月。小学校の美術の授業内だ。この絵を見た教師は校長に報告。校長はなんとFSB(連保保安局)に通報したのだ。
FSBは、マーシャさんと父親を捜査。結果、父親のSNSからロシア軍を非難するコメントが見つかったとして、自宅軟禁を経て先月禁固2年が言い渡された。父親と二人暮らしだったマーシャさんは児童養護施設に収容されている。施設のマーシャさんが、獄中の父にあてた手紙がある…。

マーシャさんの手紙(題名は“私のヒーロー”)
「パパ、こんにちは お願いだから病気をしないで 心配しないで 私は大丈夫 私はパパのことが大好きでパパが悪くないと分かっている 私はいつもパパの味方でパパのすべての行動が正しいとわかっている やっと会えた時にはパパに大きくて素敵なプレゼントをあげるんだ 私の健康や気分について書きたくない パパに心配をかけたくないの でも甘い嘘よりも厳しい真実のほうが良いということをわかっている 私たちが会えた時パパにすべてを話すよ・・・」

朝日新聞 駒木明義 論説委員
「一番の問題は校長がFSBに通報したこと。仮に校長が“こういう絵は好ましくない”と思ったとしても(通報するのは)教育者として責務の放棄です。FSBはソ連時代の秘密警察ですよ。そこに通報って、校長にとっては一番の保身、当局から評価される行動だったんでしょうね」
防衛研究所 兵頭慎治 研究幹事
「密告監視社会というのはソ連時代にホント先祖返りということ…。自由な言論、報道がなくなってしまって、こういう形で親子が切り離されてしまう。胸が痛い…」
マーシャさんの元にはこれまで一緒に暮らすことを拒否していた母親から最近突然連絡があって彼女を引き取りたいと言い出したという。なぜなのか…いまのロシアの状況を表すことの一つだと人権保護団体の代表は話してくれた。

人権保護団体OVD-infoエヴァ・レヴェンベルグ氏
「最近母親の借金が誰かから支払われているようです。当局はお金だけでなく脅迫をしているかもしれない。マーシャさんはお父さんとの信頼も厚く、彼女は信念を貫こうとしています。しかし母親はその考えをたたき出すつもりだと言っているのです」
(BS-TBS 『報道1930』 4月3日放送より)