ロシアでは今、愛国教育が強化されている。プーチン氏が考える歴史観、西側の脅威、国家への忠誠、軍隊への畏敬と感謝…。これらを子どもの内に刷り込む“洗脳”ともいうべき実態と、プーチン氏の思惑を読み解く…。
教師が当局に“報告書を書くため” Z文字の形に生徒を並ばせた

去年9月ロシアでは「大切なことを話そう」と銘打った愛国教育が義務化された。対象はロシアの教育制度における1年生から11年生(7歳から17歳)。年34回、毎週月曜日の1時限目が愛国教育の授業だ。番組では、この教育に異議を持ち、ロシアを出た学校教師に話を聞いた。

元歴史教師 ラウシャン・ワリウリン氏
「月曜日に必ず国旗を掲げ国歌を歌うようになった。しかも成績の良い生徒たちが国旗をあげ他の生徒は並んで国家を歌う。高校では軍事訓練が導入されライフルの組み立て、ガスマスクの装着、有事や非常事態の時の行動を学ぶ。中学生には仕事をさせる。兵士の目出し帽やマスク、軍服、軍用ネット、塹壕用のロウソクを作る…。全員で空き缶を集めその中に蠟を入れて戦場に郵送する。(中略)愛国教育は軍事化を目指すもので、戦争を日常の一部にするためのもの…。良いことをしているように見せかけ、実際には軍事化洗脳の取り組みだ」
愛国教育の“押し付け”は今に始まったわけではないとワリウリン氏はいう。2014年のクリミア併合以来愛国教育は強化されてきた。しかしそれは強制ではなかった。当時ワリウリン氏もクリミア占領を正当化する内容を授業に取り入れるよう要請されたが、自分はしないでいたし校長は苦々しく思ったが教師は続けられていたという。しかし、去年のウクライナ侵攻以降は教師たちが率先して戦争を煽るようにもなったという。
元歴史教師 ラウシャン・ワリウリン氏
「Z文字の形に生徒を並ばせるとか、Zの形で床に寝ころばせるとか、酷いものだった。(当局に)注目してもらいたい教師が、こうした活動を報告書に書くんだ」
ワリウリン氏は6年前から反戦活動に参加していた。軍事侵攻後圧力は強まり、去年4月には家宅捜索を受けた。授業中に政府を批判しようものなら、生徒が教師を密告したり、同僚の教師が密告したり状況は悪化し始めたという。授業を監視するようなことも…
元歴史教師 ラウシャン・ワリウリン氏
「去年の4月29日の朝7時、家族と暮らす家に7.8人の私服警官が入ってきて、パソコンや手帳を探していった。(中略)去年8月校長から渡された書類には、私の教室を含む一部の部屋に違法な活動を記録するための監視カメラが設置されると書いてあった」
そして去年9月、それまで“推奨”だった愛国教育が“義務”になる。時を同じくしてワリウリン氏は解雇された。逮捕されることを恐れた彼はキルギス共和国に出国した。それまでもロシアを正当化し、西側を批判する愛国教育は施されていた。これが何故義務化されたのだろうか。

朝日新聞 駒木明義 論説委員
「この義務化の前提となったのは2020年の憲法改正です。この時に従来はなかった“子どもの愛国心を規制するための条件を整えるのは国家の義務である”というのができて愛国心教育っていうのが憲法上の義務になってしまったんですね」
“推奨”だった愛国教育が“義務”になったことで何が変わったのだろうか。

防衛研究所 兵頭慎治 研究幹事
「これまでのプーチン大統領の“愛国主義を植え付ける”っていうのは政治目的が強くて、自らの政権基盤を強化するために愛国心を高めていくっていうのがあったんですが、それが義務化で軍事的な目的が追加された気がする。戦争が長期化する中、ロシア国民からの(今回の戦争への)支持を強制的にでも取り付けるため。(中略)開戦直後のような反戦デモが起きないようにする狙いもあるんじゃないかと」