東日本大震災がきっかけ「入れ歯銀行」

入れ歯銀行とはいったい…。その響きは少しコミカルだが、これが多くの困った人たちを救う手段になるという。

ーー入れ歯銀行って、どういうことでしょうか?

コンフォート入れ歯クリニック 池田昭理事長
「現在使っている入れ歯の形状データをクラウド保管しておき、いざという時には「通院を必要とせず」義歯を製作できるサービスです」

ーーなぜ必要なんでしょうか?

「きっかけは知人の歯科医師から聞いた東日本大震災での出来事です。震災で多くの人が着の身着のままで避難することになった。当然、貴重品や必要なものを持ち出す余裕はなく、大切なものを全て失いました。入れ歯もその一つです。5人に1人の方が入れ歯を失ったともいわれています。

避難先では入れ歯がないために食事をすることが困難になり栄養状態が悪くなってしまう人もいたそうです。急いで作り直さなければ・・・しかし病院も被災したため機材がない。結局新しい入れ歯を提供するのに数か月かかったそうです」

通常でも入れ歯の製作には1か月、通院回数は4回以上かかるという。ところが2020年、義歯治療に大転換が起きた。3Dプリンター用の歯科材料が医療機器として承認されたのだ。
池田理事長のクリニックでも同年に機器を導入し、入れ歯の作成期間の短縮が可能になった。

入れ歯のデータをクラウド上で管理すれば他の病院でも同じものがつくれるのではないか・・・そこで入れ歯データを無料で保管するサービスをスタート。災害に備えこの取り組みを全国展開しようと2023年2月に改めて「入れ歯銀行」として全国展開に乗りだした。

ーー入れ歯銀行があるとすぐ入れ歯ができるんですか?

コンフォート入れ歯クリニック 池田昭理事長
「クラウドにデータを保管していれば地元の歯科医院が被災して機材やデータを失っても、提携先の医院で全く同じものを作ることができます。3Dプリンターを使えば通常約1週間、早ければ2~3日で届くため早期に日常生活を取り戻せることが可能になるんです」

ーーとても先端技術なのに、入れ歯銀行ってネーミングは親しみがわきますね。

「あ、それは、クラウドとお伝えしても、多くのシニアの方がイメージがつかなかったようだったので、そうと名づけました…」

コンフォート入れ歯クリニックではいつでも不要になった入れ歯を受け入れているという。持ち込みも可能だし、郵送でも受け付けている。なお、クリニックで消毒してから供養するので、そのまま送って構わないそうだ。ああ、なんとも慈悲深い。