故人が旅立つときに棺に納める副葬品。愛用した品々をたくさん入れてあげたいと思うが避けるべきものもある。「入れ歯」だ。捨てるに捨てられない、しかし、再利用はちょっと…。そんな持ち主のいなくなった入れ歯が、新たな入れ歯を救うかもしれない。一体、どういうことか。
捨てるに捨てられない入れ歯・・・家族の負担を軽減しようと始めた「入れ歯供養」

故人にあの世でも美味しいものをたくさん食べてほしい。そう願って、入れ歯を棺に収めようとする遺族は結構いるらしい。気持ちは理解できるが、強引に遺体の口を開けて装着しようとすると、喉の奥に落ちてしまったり、時間とともに口から飛び出してしまうことがあるという。
しかも地域や火葬場によって異なるものの、入れ歯は金属部分が溶けて骨に付着し、遺骨を損傷させたり、火葬炉の故障の原因となるため断られるケースが多いという。結論から言うと、入れ歯は棺に納めないほうがいい。
しかし、だ。持ち主のいなくなった入れ歯は、捨てるには忍びない。だからといって、再利用もできないし、飾って美しいものでもない。結果、世の中の多くの入れ歯は、行き場を失いさまよっているのだという。
そんな悩みを解決しようと立ち上がった歯科医師がいる。役目を終えた入れ歯を供養し、新たな形で活用するというのだ。

ーー入れ歯を、供養しているんですか?
コンフォート入れ歯クリニック 池田昭理事長
「はい、そうなんです。不要になった入れ歯を集めて2019年から「入れ歯供養」を始めました」

ーーなぜですか?
「私は2011年に入れ歯専門のクリニックを開業しました。そこから、私の家族や従業員は入れ歯のおかげで生活ができているのですが、入れ歯を作る立場から2つのことが気になるようになりました。
まず、新しい入れ歯をつくることは、それまでの入れ歯が不要になることを意味します。また、いつかは自分たちの作った入れ歯も新しい入れ歯にとって代わるわけです。そう考えると、古い入れ歯を単なる廃棄物として処分することに何か引っかかる思いが出てきました。
さらに、遺体と一緒に火葬できない入れ歯はどうしているんだろうと気になり始めたんです。もしかするとご家族の誰かが亡くなって、形見として置いておくべきなのか扱いに困っている人がいるのではないか。いるのであればご家族の負担を軽減したいなと思いました」

供養は毎年10月8日「入れ歯の日」にクリニック近くの北海道神宮頓宮で行っている。祭壇には白い布に包まれた山積みの入れ歯。神職が祝詞を唱えるなか、参列者は入れ歯に首を垂れている。
さて、供養された入れ歯はどうなるのかというと、金属部分をリサイクル業者を通じて現金化するという。現在、池田理事長はある活動の資金にしようと積み立てている。その活動は、入れ歯銀行だ。