小さい頃、スーパーマーケットに行くのは、とても楽しいことでした。食品から衣服、家電、日用品まで、何でもある総合スーパーは、豊かになっていくことを実感させてくれる身近な存在でした。でも、最近、スーパーで服を買っていない自分を発見しました。
2026年までに33店舗削減
流通大手のセブン&アイ・ホールディングスは、9日、傘下の総合スーパー・イトーヨカードーの14店舗を追加閉鎖し、2026年には、今より33店少ない93店舗体制にすると発表しました。2016年には182あった店舗が、半分近くに減る計算です。
イトーヨーカドーは、単体では2015年以来、1年を除きずっと赤字続きです。22年3月期は112億円の最終赤字でした。好調なコンビニ事業の稼ぎの足を引っており、いわゆる「モノ言う株主」からは、事業の切り離しなど求められていました。
セブン&アイにとって、ヨーカドーという総合スーパーは祖業であり、今回、リストラは強化するものの、引き続きグループに持ち続ける意思を改めて示したものです。
アパレル(衣料)事業から完全撤退
とは言っても、これまで通りではありません。セブン&アイは、同時にアパレル(衣料)事業から完全撤退することも決めたのです。ヨーカドーは1920年に東京浅草で「羊華堂洋品店」として創業、その名の通り、衣料が祖業で、かつてはこのアパレル事業こそがヨーカドーの強み言われたものです。「衣料品売り場がないヨーカドー」という光景が、まもなく現実のものとなります。
「食」を中心とした小売りグループ目指す
代わって軸に据えるのが食品です。セブン&アイは、今回のグループ戦略で「『食』を中心とした世界トップクラスのリテーリンググループに成長する」と明記しました。「食」が中心の小売りを目指すのだそうです。
確かに高収益を続けるコンビニエンス事業のセブンイレブンは、「食」に強みを持っています。そして、この強みの背景にスーパー事業での多彩で強力な商品調達力があり、それがセブンプレミアムと言った競争力ある商品の開発につながっていることも確かです。新たな戦略にはそれなりの合理性があり、その相乗効果に磨きをかけることで、ヨーカドーも生き残りを図るという青写真のようです。
しかし、その先にヨーカドー自体がより魅力的になり、成長するための戦略は、まだ具体的に描ききれていないようです。確かに、食品はスーパー事業の核であり、全国には好調な食品スーパーも数多く存在します。しかし、好調な食品スーパーは、地域密着であったり、特徴が際立っていたりするものです。
ヨーカドーも、グループ内の食品スーパーとの統合再編や、スーパーとコンビニの中間のような新型店舗の展開などを掲げていますが、ヨーカドー自体がより魅力的になる「何か」を見つけなければ、今回のリストラも単なる時間稼ぎに終わってしまいます。
創業家出身の伊藤順朗氏に、新たに「代表権」
今回のグループ戦略決定とあわせてセブン&アイは、創業者である伊藤雅俊名誉会長の次男である伊藤順朗取締役を代表取締役専務執行役員とすると決めました。これでセブン&アイで代表権を持つのは3人となります。セブン&アイ発足後、創業家出身者が代表権を持つのは、これが初めてのことです。そして、この伊藤順朗氏がスーパー事業を管轄することになりました。
「何でもある」総合スーパーが、「食品に集中」したスーパーに変わって、どのように「魅力的」になれるのか。創業家出身の伊藤氏は、文字通り、祖業と格闘することになります。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)