憲法審査会、通称「憲法審」。これまで憲法審は、審査会を開く前の段階=「幹事懇談会」で与野党の話し合いが延々と続き、さらには幹事懇談会そのものの開催をめぐって与野党の駆け引きが延々と続いていた。結果として審査会がなかなか開かれず、外からは「いま何をやっているのか」見えにくい状態だった。
しかし、この通常国会では審査会が毎週開催されている。そんなことは当たり前ではないかと思われるだろうが、これまでと何が違うのか。憲法審の「現在」をまとめた。
■“別格”の憲法審
憲法審は、国の最高法規である憲法や、それに関する法律を取り扱うことから、丁々発止の予算委員会など、他の委員会とは一線を画す。伝統的に与党側は野党の意向を無視するような、強引な運営は避けてきた。
結果として、運営をめぐっては野党側の声が大きくなる。憲法改正4項目を掲げ、改憲へと邁進するかのように見えた安倍政権時代は、野党側が「安倍政権のもとでは審議に応じられない」と、開催を拒否し続けた。
■憲法改正議論めぐる勢力図の変化
しかし去年の衆院選で立憲民主党は敗北。自民党は一気に強気に出る。2022年度予算案が審議されている最中の今年1月、自民側から立民側に憲法審開催が打診された。まず、これが異例だった。これまでは、予算委員会が開かれている間は憲法審など、他の委員会はほぼ開かないという「慣例」だったからだ。
「他の委員会同様、予算案審議中は開催に応じられない」
立民側の返答は型通りのものだった。しかし立民は泉代表の新体制となり、柔軟姿勢への転換を模索していた。
相変わらず日本維新の会は、開催に応じない立民を猛攻撃する。さらに野党である国民民主党が、与党側の幹事懇談会に出席。玉木代表が「議論をせず、開くか開かないかで争ってる国会を見せることは、政治不信を招く大きな原因になっている」と立民、共産への批判を繰り返した。立民は追い詰められた格好となる。
「泉代表は応じないことのデメリットを気にしている。ダメージをどう減らすかだね(立民・幹部)」
■“コロナが憲法審を動かした”
こうした中、新型コロナの感染拡大で国会議員の感染者が日に日に増えていた。憲法56条は「総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない」と定める。国会議員の感染者が爆発的に増えた場合、国会はどうするのか。野党側は2月2日に行われた衆議院予算委員会で岸田総理に「オンライン国会の実現」を訴えた。
「直ちに憲法改正をしなくとも、オンライン審議に参加できる。総理はこういった考え方に賛成ですか(立民・奥野総一郎衆院議員)」
「各党各会派において議論していただければと思いますが、一つ有力な手段となりうると一般論としては考えるところであります(岸田総理)」
これに目をつけたのが与党側だった。憲法56条の「出席」は、オンラインでの出席も許容されるのか。これが議題なら、立民も憲法審に応じられるのではないか。
改憲論議を前に進めるため、憲法審を開催したい自民党側と、他の野党からの批判に耐えられず、「開催に応じる理由」を探していた立民側の思惑が一致。水面下の協議を経て、予算案審議の最中にも関わらず、憲法審開催で与野党は合意した。 立民の中堅議員は「コロナが憲法審を動かした」と語った。
■“憲法改正なしでオンライン国会可能”
2月10日、衆議院で今国会初となる憲法審が開催され、オンライン国会について各党が意見を述べた。
「オンラインを構築してリモート参加できるのか、様々な検討が必要だ(自民・新藤義孝筆頭幹事)」
「オンラインの審議は現行憲法上、可能であることを明確にすべきだ(立民・奥野総一郎筆頭幹事)」
その後も、憲法学者を招致して議論を深めるなど、憲法審は与野党の合意の上、毎週開催された。その結果、憲法上の「出席」について「緊急事態が発生した場合など、例外的にオンラインによる出席も含まれると解釈できる」との意見が多数を占めたと明記した文書を、憲法審で決議。3月8日、衆議院議長に報告された。
与党側筆頭幹事の新藤義孝は、文書がまとまった成果をこう強調する。
「極めて画期的なことだった。憲法論議をさらに積極的に深める必要はますます高まったし、それが今回きちんと憲法審査会ではできるんだということが証明できた」

■協調路線から一転
その後も衆議院の憲法審では、自民が主張する緊急事態条項の創設や、立民が主張するCM規制強化について参考人招致が行われるなど、審査会の毎週開催が定着していった。
ところが4月、自民は維新などと共に、国民投票法案改正案を突然提出する。この法案にCM規制強化が盛り込まれていなかったことから、立民側は猛烈に反発した。
「せっかくCMネット議論が佳境に入ってきたというときに、なぜ技術的な改正の話を突然やってくるのかというのは、『憲法記念日までのパフォーマンス』にしか見えない(立民・奥野総一郎筆頭幹事)」
こうした反発に参院側も呼応し、 今回提出された国民投票法改正案は、今国会で成立しない見通しとなっている。
ただ、夏の参院選の結果次第では、与党側が憲法改正に本気で取り組むだろうとの見方は強い。 憲法改正をめぐり、参院選でどのような論戦が交わされるのか。注目が必要だ。
TBSテレビ政治部 野党担当