元日銀副総裁 西村淸彦氏
「いちばん植田さんらしいのは“魔法のような特別な金融政策はやらない”と言った。要するに当たり前の伝統的な中央銀行の姿に戻していこうと。(黒田さんの政策は)伝統的ではなかった。非常にバランスのいい形で両方の側に軋轢を生まない、中庸を解く答弁だった。ほとんど完璧な答弁だった。本音かどうかといえば本音だったと思う。」

大規模緩和を継承すると言いながら、さまざまな副作用に言及した答弁。どちらも本音だというのは、つまり2%の物価上昇などの政策の一部は継承するという意味で、アベノミクスを肯定するとは一言も言っていない、と西村氏は指摘し、さらに…。

元日銀副総裁 西村淸彦氏
「例えば“量的緩和の効果はない”と明言されているわけです。これはアベノミクスの最も基礎的な部分が量的緩和でしたから、もう心の中とかではなくはっきりとアベノミクスを否定されているわけです」

東短リサーチ チーフエコノミスト 加藤出氏
「上手くバランスを取った答弁。今回は国会で(次期総裁として)承認されることが目的でしたから…。ここであまり政策変更について具体的に述べてと、マーケットが走り始めちゃう。デビュー戦は4月末ですから。(中略)現在非常にわかりにくく(金融政策が)混乱状態になっている。かつ副作用もたくさんある。そこを解きほぐしていかないとならない。・・・就任早々、国債金利を固定したことの相当のゆがみをどう整理していくかという大変難しいところにいきなり直面される」

朝日新聞 原真人 編集委員
「安倍派の世耕さんが完全にアベノミクスを継承するんだって言わせようと迫ってるんですが、そこで非常に上手いのは、否定はしないんですが、最後まで“アベノミクスを継承する”とは言わなかった。(中略)植田さんというのは学者なんですが、20年前日銀の審議委員だった時に当時日銀総裁だった速水優さんが“将来植田さんは総裁候補になりうる”と言った。今回国会で見せた姿から“只者じゃない”と私は思った」

「イールドカーブ・コントロールについては微調整に向かない枠組みだ」

只者じゃない日銀新総裁は解決しなければならない諸問題の中でも早急にどうにかしなければならない問題が「イールドカーブ・コントロール」だろう。長期金利を0%近くに抑え込むために日銀が国債を買い入れるという、世界中どこの国も手を出さない金融政策だ。世界のファンドは“こんな政策続くわけない”“やめた時が儲けのチャンス”と、既に日本国債を売りに出している。

米独立系資産運用会社『ニューバーガー・バーマン』 ロバート・ディシュナー氏
「マーケットには日銀はこうすべきというマーケットなりの見解がある。マーケットが常に正しいとは限らないが、中央銀行が常に正しいわけではない。日本はいずれ長期金利のコントロールから抜け出さなければならない。マーケットはそれを想定したポジションを取っている。」

約58兆円の資金を運用する『ニューバーガー・バーマン』も日本国債を売っている。そして日銀が買い支えをやめ、金利が上がれば国債の価格は下がる。その時に買い戻す。高く売ったものを安く買い戻すことで儲けが見込めるのだ。果たして日銀新総裁は、黒田総裁が頑なに続けてきた“長期金利のコントロール”を続けるのだろうか?

元日銀副総裁 西村淸彦氏
「(長期金利のコントロールを)やめないと思います。日本に政策転換が必要だと言って投機をしている海外ファンドたちを儲けさせてしまうから。(言われた転換を)をするとそれで済まない。次の政策転換も求めてくる。」

海外ファンドの思う壺にハマりたくないという気持ちもわかるが、それではいつまでもゼロ金利を続けてきたこれまでと変わらない。経済状態が変われば政策も変わると西村氏は言うが歯切れが悪い。一方、植田新総裁は、イールドカーブ・コントロールを続けないのではというのは、加藤氏と原田氏だ。

東短リサーチ チーフエコノミスト 加藤出氏
「(イールドカーブ・コントロールは)黒田さんの政策だったので早めに切る方がいい。長期金利を固定するという政策は辞めるけれど、国債はある程度まとまって買って行くと思う。金利をコントロールするというのではなく、これだけ膨大な国債の発行量のわが国で買い支えないってわけにはいかない。ただ(金利をコントロールしない)政策転換をすれば今よりは買う量を減らせる。(中略)海外の投機筋が言ってることの方が正しい。日銀の方が理屈の通らないことをやってるわけです」

朝日新聞 原真人 編集委員
「4月の下旬に(植田新体制が)発足したらすぐ1回目の政策決定会合があるんですが、すぐ(イールドカーブ・コントロールを)撤廃する可能性もあると思う。衆議院と参議院の植田さんの質疑で何度もこの問題を聞かれてるんです。でもこの点だけは言質を取られないように“色々な可能性がある。具体的なことは差し控える”で終始している。これはカードを最後まで確保したんだと…。(頭の中で考えてるから)言わなかった。さらに去年の7月、日経新聞の経済教室で日銀の政策について解説してるんですが、“イールドカーブ・コントロールについては微調整に向かない枠組みだ”と言っている。(中略)植田氏が書いているものを虚心坦懐に読めば撤廃だと思う」

撤廃したら市場が大きく動いたり、金利が一気に上がったり、混乱はないのだろうか?

朝日新聞 原真人 編集委員
「撤廃だけするのではなく、何かの緩和策を抱き合わせで行う。私には思いつきませんが、イールドカーブ・コントロールをやめることは引き締めではなく、緩和手段として“出来の悪い”緩和手段は辞めて、新しい“出来のいい”緩和手段に変える、という可能性がある。」

「チャレンジングな課題に挑んでみたい」

アベノミクスはもう続かない。今となっては、これまでの大規模緩和は“出来の悪い”策だったことは確かなようだ。具体像は見えてこないが、只者ではない新総裁、そこそこ期待できるかもしれない。植田氏は何故日銀総裁を引き受けたのか、という質問にこう答えたという。

朝日新聞 原真人 編集委員
「総裁候補といわれた人たちもやりたくないと言って逃げた難しい仕事を学者のあなたが何故引き受けたんですかと問われ、“チャレンジングな課題に挑んでみたい”“5年間で与えられたミッションを遂げたい“って言った。これは結構な自信。」

(BS-TBS 『報道1930』 2月28日放送より)