(2022年4月23日放送分)
■特別支援学校や特別支援学級の高まるニーズ

いま、「特別支援学校」や、小・中学校に設置された「特別支援学級」に在籍する障害のある子は急増し、支援学級は10年前に比べ倍増した。背景には発達障害がある子の増加や、専門的な指導を望む保護者のニーズの高まりがある。かつてなら在籍していなかったような子も、最近は特別支援学校に来るようになったという。
埼玉県立大宮北特別支援学校 山口伸一郎校長
「小学1年生の4月から授業中に自分の座席にきちんと座っていられるお子さんや、国語とか算数の学習が部分的にでも取り組めるような児童ですとか」
専門家は今、学校現場で起きている変化を危惧している。
東京大学大学院教育学研究科 小国喜弘教授
「教室の中、学校の中の排他的な空気が非常に強くなってきている一つの現れとしてみるべきではないのかと感じています。30人のきちんと座っていられる子がいい子で、騒いでしまう子がちょっとどこか『普通と違っている子』と言われてしまう」
■障害があっても通常学級に 「インクルーシブ教育」が変えるもの

障害があっても特別支援学校ではなく、通常学級に通った人がいる。
北海道・旭川市の平田和毅(カズキ)さん17歳。重い知的障害と自閉症がある。文章で話すことはできないが短い単語で意思疎通はできる。
通常学級に通う、その道のりは簡単なものではなかった。障害があるとわかったのは2歳半のとき。診断した医師にすすめられて、障害児向けの通園施設に通った。
当時の施設ではことばの訓練などが行われ、他の子どもたちとの関わりはほとんどなかったという。
和毅さんの母・平田江津子さん
「息子にとってはきちんと訓練してなるべく普通の子に近づけるのが息子のためだと思っていましたし、だから特別支援学校に入れるのも当たり前だと思っていた」
大きな転機となったのは地域の幼稚園への体験入園だった。
母・江津子さん
「周りの子どもたちが先生の真似をして、言葉で通じないと思ったら、『カズくんダメです』とかね。誰もカズキをはじこうとしたり、邪魔ものにしなくて普通に関わってくれて驚いた」

するとカズキさんに変化が…
母・江津子さん
「初めて自分の意思を絵カードで私たちに伝えてくれた。障害児幼稚園の絵カードを嫌がって投げて『行きたくない』という意思を見せて普通の幼稚園の絵カードをすごく嬉しそうに手に持って、普段絶対にしない身支度まで自分でして彼は楽しいんだなということが分かりました」
幼稚園では地域の子どもたちと一緒に通うことができた。"小学校もみんなと一緒の通常学級に通いたい"そう希望したのだが、学校や行政からは…
母・江津子さん
「みんなから反対されました。『カズキ君は特別支援学校に行った方がいい』と。『かわいそう』と先生方に言われたし、いろんな場面で『カズキ君のことを本気で考えましょう』と。療育センターや病院でも言われました」
障害のある子どもの就学先は本人と保護者の意見を可能な限り尊重したうえで、障害の状態などを踏まえて教育委員会が決めることとなっている。
話し合いは平行線で小学校では6年間、特別支援学級に在籍した。
母・江津子さん
「『多様な学びの場の提供』と、一見丁寧に聞こえますが、障害を持った親にとって非常に同調圧力を生むというか、『あなたの子どものためにああいう学校があるのに何であっちにいかないの』という圧力が強烈なんですよね」
通常学級に通う。そこには、カズキさん親子にとって想像を超える高い壁があった。それでも、熱意が壁を動かした。中学でついに通常学級に通うことが可能になったのだ。
母・江津子さん
「校長先生が『やってみようか』と。『何かあったらその都度話し合っていこう』と。『やってみよう』という言葉が、ずっと欲しかったんだなって」