「戦場漫画」に描いた思い
そんな松本さんが描き続けたのが、「戦場漫画」と呼ばれる、戦争をテーマにしたシリーズでした。戦争に翻弄され、未来を奪われる若者たちを描いています。
シリーズのひとつ、「音速雷隊」。そこでは、月へ行くロケット技士を夢見た青年が、「せめて、あと30年生かしてくれたら…」とつぶやきながら、特攻へ向う姿が描かれました。
また原爆投下を聞いたアメリカ兵の心情もこうつづられています。
「敵も味方もみんな大馬鹿だ…」
戦争に対する強い怒り。背景には、戦争中、戦闘機のパイロットだった 父・強さんの存在がありました。
南方戦線で戦った強さんが帰国したのは終戦から2年半後。戻った父は、自らの戦争体験を繰り返し松本さん語ったと言います。
松本零士さん(2019年)
「自分が相手を追い詰めたときに、相手のパイロットが振り返る。あいつにも、死ねば悲しむ子どもや家族がいると思うが、鬼になって撃たなければいけない。だから『戦争は人間を鬼にするんだ、二度とやってはいかん』と…」
松本さんの代表作の一つ、「宇宙戦艦ヤマト」。放射性物質に汚染された地球を救うため、敵と戦いながら宇宙を旅するSF漫画です。
その宇宙戦艦ヤマトの沖田艦長が語る言葉に、松本さんが、父から受けとめた、ある思いが込められていました―。
沖田艦長の言葉とは―?
松本零士さん(2019年)
「沖田艦長、あれは実は私の親父の顔をそっくり使っている。あんな顔していた。ひげ生やして…」
代表作の一つ、「宇宙戦艦ヤマト」の沖田艦長は、松本さんの父親がモデルだといいます。
その沖田艦長が、物語で度々「死ぬな」と話す場面が登場します。それは父・強さんの影響でした。
「死ぬために生まれてくる命はない」
松本零士さん(2019年)
「『人は生きるために生まれてくる。死ぬために生まれてくる命はないぞ』と。それが(父の)口癖だった。そういう教育を激しく受けたので、あそこで(「死ぬな」と)使った」
「死ぬために生まれてくる命はない」…。戦場で、部下である多くの若者を失った父親の口癖は、そのまま松本さんが漫画を通して訴えるテーマとなりました。

松本さん
「人は志を持って生まれてきたのに、それを果たせずに終わっていく悲しみ、それを描きたかった。少年の日から…」
戦いを否定しながらも、戦いを描きつづけた松本さん。一見すると相反するその姿勢は、戦争で命を失っていった若者、そして争いが未だ続く世界への強い危機感がありました。
「若いうちに死ぬのはどんなに無念か。それが分かるから、争っている場合じゃないというのが、自分の信念。今は地球人同士が戦争している場合じゃない。温暖化とかいろんな問題があります。そういう時代に戦争なんかやっていたら、滅びるだけです―」
(サンデーモーニング2023年2月26日放送より)