イランから亡命した女優が語るイラン社会の性差別「鞭で打たれる女性も大勢いる」

2022年5月に開催されたカンヌ国際映画祭。そこにイランから逃れてきた俳優が参加していた。ザーラ・アミール・エブラヒミさん。イランでは国民的な俳優として知られていたが、交際相手との性交渉を映したビデオが流出したことで罪に問われ2008年、フランスに亡命した。

今回の映画はイランで20年前ほど前に起きた連続娼婦殺人事件を題材にしたもので、その事件を追うジャーナリスト役をザーラさんが演じた。娼婦を抹殺することこそが正義だと考える信仰心の厚い犯人と、それを英雄視する一部の市民たち。イラン社会に潜在する性差別の複雑さが描かれている物語だ。

この作品で女優賞を受賞したザーラさんが、亡命先のフランスで我々の取材に応じた。

ザーラさん
「監督はいつも、この映画は『連続殺人犯についてではなく、連続殺人的な社会についての映画だ』と言っていました。映画に登場するような女性がなぜ存在するのか誰も疑問を持つことはなく、まず排除しようと考える社会なのです」

ザーラさんは最初、出演者を探すキャスティング担当だった。しかし撮影直前になってジャーナリスト役の女優が出演を辞退。ヒジャブを外して着替えるシーンがあったからだという。

ザーラさん
「たぶん彼女はイランでのキャリアが終わると思ったのでしょう。イランの女優にとってはありえないシーンなのです。私はとても怒りました。そして泣きました。なぜ彼女がやめるのか理解もできたからです」

イランにいた頃のこんな体験も明かす。

ザーラさん
「13、14歳の時のことです。友達と2人だけで買い物に行くことを父親が初めて許可してくれたんです」

その道中、タクシーに乗り合わせた男性にヒジャブから髪が出ていることを注意された。無視していると、男性は他の乗客を強制的に降ろしザーラさんを警察へと連行。麻薬で捕まった男性ばかりの部屋に一晩、収容されたという。

ザーラさん
「家に帰ると私はすぐに髪を切りました。もう嫌だと思いました。残念ですが、このような経験はみんなしています。鞭で打たれる女性も大勢います」

女性たちの間では今、隠すことを強要されてきた髪の毛を切り落とすことで抗議の意思を示す運動が起きている。

それは世界にも広がり、ハリウッドの俳優らが髪を切る動画の投稿も相次いだ。

フランスのエッフェル塔には、デモのキーワード「女性・命・自由」の文字が・・・

フランス・パリでの抗議デモ
「仲間に誓って最後まで闘う!」

声を挙げているのは女性ばかりではない。フランスではイラン人の留学生の男性が、イランで起きている問題に目を向けてほしいとのメッセージを残して投身自殺した。

ザーラさん
「彼らが求めているのは40年来私たちを不幸にしている、このひどい体制からの解放です。若い世代は、SNSのある開かれた世界で育ってきています。それは私たちのように孤立させられることのない世界です。イラン国内だけでなく、国外でもこんなふうに連帯できたことは今までにありませんでした」