東京オリンピック・パラリンピックをめぐる談合事件は2月8日、大会組織委員会の森泰夫元次長(56)と電通元幹部・逸見晃治容疑者(55)らが逮捕される事態に発展した。二人三脚でオリンピックを準備してきた組織委と電通の幹部が、なぜ談合を主導したのか?その発端になったのが、組織委が電通に突如突きつけた「50億円にのぼる手数料の減額要請」だった可能性があることがわかった。
組織委上層部が電通幹部を呼び出し

談合が疑われているのは、2018年5月から行われたテスト大会の計画に関する入札。電通や博報堂など広告会社とイベント会社セレスポなど計7社が受注を分け合ったとみられている。ノウハウを蓄積した業者はその後、本大会の業務を入札を経ず随意契約し400億円規模の契約となった。この談合を取りまとめたとみられているのが、組織委元次長の森容疑者と電通だ。
電通は2014年の時点で、すでに組織委から大会のスポンサー集めを一手に担う「専任代理店」に指名されている。組織委にも大勢の社員を出向させるなど、いわば二人三脚で五輪開催に向けた準備を進めていた。
入札から遡ること1年あまり前の2017年3月、電通の役員が組織委員会幹部に呼び出されたという。
「国際団体の信用を得る必要がある。経費を削減できないか」(組織委員会幹部)
この頃、組織委員会の上層部はIOC(国際オリンピック委員会)などの国際団体から大会の準備状況や経費について懸念を示されていた。膨れあがる大会経費の問題は都議会でもやり玉に挙げられ、小池都知事も会見で「都民、国民の理解・納得を得るためにさらなる経費の圧縮を図る」と発言した。組織委はこうした批判をかわすため、電通側に対し「経緯の削減」を求めたのだという。
さらに4か月後の2017年7月、組織委は要求を具体化させる。
「東京都が困っている。電通が受け取る手数料を減らせないか」(別の組織委幹部)
組織委は電通側に、大会スポンサー集めなどの業務で電通が得る手数料=報酬を減額するよう求めた。その額は約50億円。これに電通は色をなして反論したという。莫大な人件費と経費を費やして五輪の準備にあたってきた電通にとって、突然の報酬削減は受け入れがたいものだった。一方で、組織委上層部からの要望も無視できない。

手数料削減の代わりに電通側が考えた策
関係者によると電通側は、自社が受け取る手数料減額の代わりとして、2つの策を組織委側に提案したという。
1つはテスト大会にも協賛企業をつけて協賛金を集めること。電通側は協賛金が基準に満たなければ、自社が補填する最低補償額(ミニマムギャランティ)も設定したという。
もう1つが、会場運営業務を実績のある業者に「割り振る」ことで、経費や準備のロスを少なくする案だった。
組織委はこの電通案を受け入れた模様だ。実際、あるテストイベントで協賛企業となった企業の幹部は取材に対し、「2017年秋ごろに電通から突然、協賛を提案する電話が掛かってきた」と証言する。
また電通は、会場運営を担う業者の意向や実績をまとめた「一覧表」の作成をはじめていた。この「一覧表」こそが、後の入札で受注調整の元になったとみられている。
業者の割り振りは組織委幹部ともに主導か しかし誤算が
一方、組織委元次長の森容疑者には、大きな誤算があった。実は森容疑者は会場運営業務について、組織委内部で「入札」ではなく、実績ある業者に割り振る「随意契約」とするよう働きかけていた。しかし組織委上層部は入札の実施を決定する。公費が入る事業であるがゆえ、透明性を求めたのだろう。
しかしその後も電通は森容疑者と密に連携し、業者を割り振る「一覧表」の更新を続けたとみられている。結果、2018年5月から行われたテスト大会の26件の入札は、ほぼ「一覧表」の通りの業者が落札した。
