愛媛が全国一の生産量を誇る養殖マダイ。
しかし、コロナ禍で出荷量が低迷し、養殖現場では、育ちすぎた規格外のマダイが増えるという課題に直面しています。


養殖マダイの一大産地、愛媛県宇和島市。
この日も朝から、丸々と太ったマダイの出荷作業が行われていました。

ケースに次々とマダイが入れられ、活魚を運ぶトラックに積み込まれていきますが、中には出荷されず、生けすに戻されてしまうマダイも…。
その正体は「規格外のマダイ」です。

北灘漁協 清水武美さん
「2キロ以上の大きなタイの販売が非常に悪くて例年以上に在庫となって、経営をかなり圧迫しているので大変厳しい状況です」

北灘漁協では長引くコロナ禍の影響で出荷量が減少していて、2キロ以上となり育ちすぎた規格外のマダイが増えているといいます。

生けすの中を覗いてみると・・・。
泳いでいるマダイは、全て規格外です。

一般的な規格サイズと規格外のサイズを比べてみると、その違いは一目瞭然。
規格外は体が大きくスーパーなどの小売店では捌くときに扱いづらいため、需要が少ないといいます。
しかし、規格外でも味に変わりはありません。

北灘漁協 清水武美さん
「今のタイは脂がのって大変おいしいので、ぜひともみなさん食べてください」

出荷できないにも関わらずエサ代がかかることから、規格外の増加が養殖業者の経営を圧迫しているほか、生けすの中に新たな稚魚を育てるための十分なスペースを確保できないなどの課題にも繋がっています。

北灘漁協 清水武美さん
「ほとんどの養殖業者が在庫を抱えていると思います。この状況が続きますと稚魚の仕入れもできず、来年以降の養殖にも支障をきたすので・・・」


こうした中、養殖魚を加工・販売する「愛南サン・フィッシュ」は、刺身や寿司ネタとして出荷することができない規格外のマダイを加工品に使用することで消費の拡大を図っています。

記者
「大きくなりすぎてしまったタイはどういうところで活用している?」
愛南サン・フィッシュ 後藤謙知さん
「学校給食と子ども食堂。大手のコンビニさんのところに加工したものが入るようになっている。おにぎりの具だったりとか」

規格外のマダイを取り扱うための設備にも力を入れています。
その1つが、魚の切り身をカットする「スライサー」。

一般的なマダイは2年ほどの養殖期間で出荷されますが、出荷先が見つからずさらに大きく育てられたマダイにも適応する工夫が施されています。

愛南サン・フィッシュ 後藤謙知さん
「これは特注なんですけど、ここの幅が3年魚、4年魚のタイでも入るような5枚おろしにした状態でも、というように改良しています」

マダイの切り身を乗せるスライサーのレーンの幅は通常6センチほどですが、規格外にも対応できるよう、最大で13センチに広げました。

さらに…。

記者
「これは何ですか?」
愛南サン・フィッシュ 後藤謙知さん
「アルコール凍結機。これが食品に使えるアルコール、マイナス30度。この状態が冷凍庫みたいな状態」

マイナス30度に冷えた食品用のアルコールに浸すことで、切り身の場合、一般的な冷凍庫の15倍から20倍ほどの速さで凍らせ、保存期間をおよそ1年まで伸ばすことができます。

愛南サン・フィッシュ 後藤謙知さん
「食材が素早く凍ることによって細胞分裂を抑制する。解凍したときにタイの中の水分が抜けにくい。食べるときに美味しさがそのまま残っている」

加工や冷凍の技術を活用することで「規格外」のマダイの販路開拓を図るほか、変動する需要にも対応することができます。

愛南サン・フィッシュ 後藤謙知さん
「魚体の大きさはあまり関係ない。うちみたいなところが受け皿になってやっていければ」


養殖業の関係者によりますと、愛媛県内のいけすで出荷先が見つかるのを待つ「規格外」のマダイは、去年9月にはおよそ1000万匹に達したとみられています。
加工や冷凍などの取り組みが広がりつつあるものの、抜本的な課題解決にはほど遠い状況です。

北灘漁協 清水武美さん
「実際、うちの管内でも何軒か廃業者が出ていますので・・・」

新型コロナの収束が見通せない中、地元の海のめぐみをどう活かしていくのか、養殖現場では存続をかけた模索が続いています。