パラリンピックの車いすテニス男子シングルスで3つの金メダルを獲得するなどし、パラスポーツ界をけん引した国枝慎吾選手(38)が7日、引退会見を行った。登壇した国枝選手は「1月22日付けで引退することになりました」と報告。「全米が終わってから僕自身もう十分やりきったなというのがふとした瞬間に口癖のように出てしまった」と世界ランキング1位のまま現役を退く決断に至った経緯を語った。
この日の会見には、所属するユニクロの柳井正代表取締役会長兼社長が同席した。「(国枝選手は)完全な人、あるいは完全に見える人。パーフェクトですよね」とその人柄を称賛。「非の打ち所のない。僕は世界一のグローバルアンバサダーだと思ってます」と賛辞を送られた国枝選手は、横で照れ笑いを浮かべた。
現役27年間の一番の思い出は「東京パラの金メダルですね」。「パラリンピックはアテネから北京、ロンドン、リオそして、東京と出ていましたけどそれぞれが僕の転機になっていました。アテネで金を取った時は引退しようと思っていたし、2008年の北京ではそれをきっかけにプロ転向して12年はプロになっての証明をして16年は挫折を味わったので東京のパラリンピックは集大成になった」と振り返った。
今後のことは「引退発表から2週間くらい経ってなんとなく自分のなかでぼんやりとしてでてきたくらい。心の中に秘めておきたい」と明言しなかったが「現役生活で何と戦ってきたのかなと考えると車いすテニスを社会的に認めさせたい、スポーツとしていかに見せるかにこだわってきた」。健常者と障害者の垣根のない、スポーツの普及活動を視野に入れている。
男子シングルスでパラリンピック金メダル3回、4大大会では50回(シングルス28勝、ダブルス22勝)の優勝を誇るなど圧倒的な存在として世界をけん引してきた国枝選手。国民栄誉賞授与も検討されていて「車いすテニスってところが評価されて、自分自身がやってきたことが最大限評価されたっていうことについては大変光栄に感じました」と話す。
「成績やタイトルについてはやり残したことはないですね。昨年ウィンブルドンを取って、本当にやり切ったっていうふうに自分自身も思っている。現役生活を送れたことは最高の幸せだったと思う」。終始穏やかな笑顔で、現役27年間を振り返った。
国枝選手は先月22日に自身のツイッターで「2006年に初めて世界一位になってから17年。最後まで世界一位のままでの引退は、カッコつけすぎと言われるかもしれませんが、許してください(笑)」と投稿。引退を表明していた。
■国枝慎吾(くにえだ・しんご)
1984年2月21日生まれ38歳。千葉県出身、麗澤大学卒業、ユニクロ所属。9歳の時に脊髄腫瘍を発病し下半身が不自由になる。母の勧めで11歳の時に車いすテニスに出会う。2004年アテネパラ・ダブルス金メダル、2008年北京パラ・シングルス金メダル、ダブルス銅メダル、2012年ロンドンパラ・シングルス金メダル、2016年リオパラ・ダブルス銅メダル、2021年東京パラ・シングルス金メダル。