不動産鑑定士・田原拓治さんが今回の疑惑を詳しく解説
50年以上にわたり不動産鑑定を行い、東京地裁の鑑定人も30年近く務めた経験がある不動産鑑定士の田原拓治さんに、今回の一連の流れと業者からの回答について詳しく話を聞いた。まずは改めて以下のIR用地の不動産鑑定業者の結果について。
【IR用地の不動産鑑定業者の結果】
(土地の価格(1平方メートルあたり)、月額賃料(1平方メートルあたり)、利回り)
A社:12万円、428円、4.3%
B社:12万円、428円、4.3%
C社:12万円、428円、4.3%
D社:11万8000円、391円、4.0%
(Qこういうことはあり得る?)
「3社、3つの価格が一致するということはまずありません」
(Q田原さんが50年以上不動産鑑定をやっていて、今までの経験であまりこういったことは起きない?)
「あまりじゃなくて、100%ありえないです」
(Q最初にこの話を聞いたときはどう思った?)
「報道で知りましたが、とんでもない鑑定が出てきたなと。不動産鑑定業・不動産鑑定士に対する信頼を非常に貶める行為だなと思いました」
大阪市の担当者の話では“たまたま一致した”ということだった。そこでMBSは、鑑定業者4社に対して、1社につき35問~45問の質問を投げかけた。そして、土地の価格などが3社一致していることについては、以下のような回答だった。
【4社に質問:価格などが3社一致しているが?】
A社:回答なし
B社:意見を述べることは控える
C社:回答なし
D社:回答致しかねる
(Q田原さん、鑑定者が答えないのはどうしてだと考える?)
「不動産鑑定書は著作物です。ですから、書いた鑑定士が責任を持って、内容がわからなければ説明しなければ、著者としての義務を果たしてないということです。不動産鑑定では、いい加減な鑑定をすると懲戒処分となるんですけれど、それはなぜそういうことが起こるかというと著作権があるからです。答えないというのは、その自覚が全くないですね」
次に、IR用地鑑定業者の結果で、3社が1平方メートルあたりの土地の価格で『12万円』をつけたことについて。これが破格の安さではないかという点だ。大阪府内の他のエリアを見ると、USJの隣接ホテルは『46万3000円』、りんくうアウトレットでは『21万9000円』となっている。これと比べるとやはり12万円は安いと感じてしまう。
(Q田原さん、このあたりの価格設定については?)
「おそらく周辺の土地の価格を調査してなかったのでは。49万平方メートルと大きい面積ですから、その評価に使える取引事例は大阪市にはないということを決めつけてしまって、全国の規模のある事例を探したと。結果的にはそれらの事例が安いわけですから、それで安く出てきたんじゃないかなと思いますね」
この破格の安さについて、審議会の中の不動産鑑定士を取材すると『なくはないかな』という声もあった。ただ、そうした数字を出すのであれば根拠となるような説明が不動産鑑定評価書にきちんと書かれていなければいけないが、田原さんによるときちんとした説明が書かれていないという。今回、そうした点については質問をしたが明確な回答がないところが多かった。
大阪港湾局は“IR事業は国内実績もなく、評価上考慮することは適切ではない”と鑑定業者1社から意見を受け、4社に意向を確認したうえで、IRを考慮せずに鑑定を依頼。各社はショッピングモールなどの大規模商業施設を想定して鑑定したが、不動産鑑定評価書に詳細な説明はなかった。そのため4社に対して、具体的な棟数・用途・階層・床面積などの提示を求めたが、4社とも回答はなかった。49万平方メートルの使われ方は不明だ。
(Qどういう計算だったのかは明らかにすべき?)
「そうです。通常49万平方メートルを一まとまりの土地として利用することは考えないですね。標準的な規模として、2万平方メートルくらいを一まとまりの土地として利用することが考えられる。それに対する取引事例を考えれば、大阪市内にあるわけですから。そうすれば、かけ離れたような価格は出てこないはずなんです。最初の49万平方メートルを前提に一つの土地としての扱いで価格を決めようと。ですから、それで安くしたんじゃないでしょうかね」
4社への鑑定報酬はそれぞれおよそ620万円~770万円が大阪市から支払われた。田原さんは高額な報酬にも関わらず、ずさんな不動産鑑定評価書だと指摘する。