■「あの頃はこうやって登れた」が命取りに

實川さんでさえ、年齢による体力の変化は避けられないといいます。

<實川欣伸さん(83)>
「例えば70歳前後の頃は、遅くとも登りに3時間半、下りに2時間ほどあれば往復できたわけです。歩き続けていれば体温も下がりませんし、少し寒いと思えばカッパを着れば防寒になりました。しかし今は、正直言って登りに10時間以上、下りに5時間かかるようなペースで登っています」

70歳の頃と83歳の今。

同じ山に登っていても、必要な時間は大きく変わります。

だからこそ、實川さんが繰り返すのが「己を知る」という言葉です。

<實川欣伸さん(83)>
「昔の記憶のまま、『あの頃はこうやって登れた』と、自分の力を過信して登ってしまう。そこに問題があります。年を取ると、体力や体温が戻る時間が全然違いますから。若い頃なら少し早足で歩けば体も温まりますが、年を取ればそうはいきません。焦って行動すれば滑落や遭難につながっていくわけですから」

2025年の富士山では「病気」による遭難も17人発生し、高山病や低体温症といった高所特有のリスクが目立ちました。