ベトナムで追跡 “痩せるゼリー”を売る 「ボスN」

「身体に良い」と宣伝しながら、実際には危険な成分が含まれるゼリー。私たちは、「ボスN」に直接話を聞くことにした。

ベトナムの首都、ハノイ。ゼリーは一体どこで作られているのだろうか。ハノイ中心部から車で約1時間。箱に書かれている製造会社の住所を訪ねた。

記者
「近所の人によると、ここが製造会社ということなんですけど、周りがトタンで囲まれていて、中はよく様子が見えません」

受付の男性に尋ねた。

――これを作っている会社はどこですか?

受付の男性
「私はきのう入社したばかりで何もわからない」

商品を見せても相手にされなかった。取材を続けていると、撮影を止めるよう怒鳴ってきた。会社の周りには複数の防犯カメラが設置され、警戒しているようだ。すぐにその理由が分かった。

近所の人
「このチョコレートで警察が来ました。警察が来てからやり方が変わりました。夜中に作ってすぐに商品を搬出しているみたいです」

やはり、商品はここで作られているようだ。再び取材を依頼しようと来た道を戻ると、我々を待ち構える女性が…。

記者
「(チョコレートを見せて)これ知らない?これ知らないの?」

女性
「わかりません」

女性は「知らない」の一点張りで、私たちが立ち去るまでスマホで撮影し続けていた。

ボスNは一体どこにいるのか?私たちは、ボスNの自宅がある村に向かった。この村では数々の偽ブランドが作られているという。村人に「痩せるゼリー」について尋ねると、近くにボスNの母親が住んでいるという。その家の前で立ち止まると、赤いスクーターの男性がこちらを見ている。Uターンして私たちに話しかけてきた。

スクーターの男
「なんでうちを撮影しているんだ?何でこんなに付きまとうんだ」

ボスNの関係者とみられるが、ゼリーを見せても首を横に振った。そのとき、ボスNの自宅から出てきた中年女性がボスNの母親だった。

Nの母親
「何しにきたんだ!何がしたいんだ!目的はなんだ!」

母親は道端に落ちていたレンガを手に襲いかかってきた。必死に制止するが、興奮は収まらない。突然のトラブルに急いで車に戻る。母親が何度も窓を叩いてくる。30人ほどに車を囲まれてしまった。

Nの母親
「撮影したものを消さない限り、村から出さないわよ」

私たちは取材を中断した。

帰国後、改めて「ボスN」に接触を試みた。メッセージを送った2時間後、日本語でひと言「バカ」と返信が来た。

話を聞きたい、と何度も伝えると…

ボスN
「話したいのならここに来い。また来る度胸があるならな」

その後、ボスNからの返信は途絶えた。

なぜ出回る? 違法なダイエット食品

ボスNが販売する、危険な成分が入ったゼリー。なぜこうした商品が輸入されるのか。

神戸市にある検疫所。ここは、海外から持ち込まれる食品に目を光らせる、いわば輸入食品の水際だ。年間4万件近く検査している。

統括検査官
「料理するみたいに必要なところは落とす。ある程度粗く切る。この中に入れて撹拌する」

ここで検査されるのは残留農薬や食品添加物のみ。「シブトラミン」などの医薬品成分はそもそも検査の対象ではない。

――この中に医薬品が入っていても検査はできない?

統括検査官
「我々の検査は『これが出来る』という決められたものしかやらない、やれないんですよね」

「痩せるゼリー」は、検査の穴をすり抜けていたのだ。

厚生労働省は、この「痩せるゼリー」の商品名などを公表し、絶対に食べないよう呼びかけている。

だが、医薬品の輸入に詳しい金沢大学の吉田助教は、こうした違法な「ダイエット食品」は姿を変え、今後も日本に入ってくると指摘する。

医薬品の輸入に詳しい 金沢大学 吉田直子助教
「痩せたいという願望というのは潜在的にあるもの。そこに犯罪グループがつけ込んで、これだったら買ってくれるだろうと。もちろん作る方も売れるものを作る。新しいものがどんどん偽造されターゲットが変わっていく。今これにフォーカスしていても、また違うものが出てきて口コミで広がる。いたちごっこもいいところ」

ボスNも、新商品を売り出した。

ボスN
「見てください。これは“痩せるゼリー”の新作です。効果は以前の2倍です。薬の味、吐き気、めまいを感じることは一切ありません。それなのに劇的に痩せます。100%、効果を保証します」