モールの勧誘ブースは、3年から4年かけて回収する投資
ここで、冒頭のブースの話に戻ります。
宅配水の会社が新しいお客さんと出会う場所は、ウェブ広告や電話や代理店だけではありません。商業施設での催事、つまり休日のモールに出るあのブースも、主要な入り口のひとつです。無料で試飲してもらい、くじ引きで足を止めてもらい、その場でサーバーを申し込んでもらう。あれだけ人手をかけて声をかけ続けているのは、1件の契約が取れれば、その後の数年間、毎月水の代金が入り続けるからです。
このお金の流れは、決算にもはっきり出ています。お客さんを獲得するためにかかった費用は、その期の費用として一度に落とすのではなく、「契約コスト」という資産として計上されます。2026年3月末の残高は147億円。これを、そのお客さんにサービスを提供すると見込む3年から4年の期間にわたって、少しずつ費用に振り替えていきます。この期に振り替えた額は78億円でした。
サーバーを無料または低額で貸し出して、その後の定期購入で元を取る。カミソリの本体を安く配って、替え刃で稼ぐビジネスと同じ構造です。あのブースは、いわば先に払っておく費用のほうで、回収は3年から4年かけて行われる。だからこの業界の生命線は、水の質もさることながら、解約率、つまりお客さんに何年続けてもらえるかのほうにあります。
売っているのは「重い水を運ばなくていい暮らし」
コンビニの水と比べると、違いがよくわかります。
コンビニの水は、工場からトラックでまとめてお店へ運ばれ、最後は買った人が自分の手で持って帰ります。「最後のひと運び」は、お客さんの仕事です。
一方の宅配水は、1本10リットル前後もある重いボトルを、一軒一軒の玄関先まで、毎月届け続けます。同じ水でも、宅配水が売っているのは、水そのものというより「重い水を自分で運ばなくていい暮らし」のほうなのです。費用のいちばん大きなかたまりが配送になるのは、当然の結果と言えます。
日本宅配水&サーバー協会の2025年度の推計では、ボトルを届ける宅配型がおよそ468万台、1838億円。加えて「浄水器形」と呼ばれる新しいタイプが126万台、274億円まで伸びています。浄水器形は水を配達しません。家の水道水をサーバーに注ぐか、水道管に直接つないで、内蔵のフィルターでろ過し、冷水やお湯として使います。天然水やRO水などのボトルを運ぶモデルと、水道水を活かして物流費を省くモデル。水市場の二極化が、ここでも起きています。














