休日のショッピングモールで、ウォーターサーバーの勧誘ブースを見かけたことはないでしょうか。くじ引きや試飲で足を止めさせて、その場で契約をすすめる、あのブースです。蛇口をひねれば飲める水が出てくる国で、なぜあれほど熱心に水を売るのでしょうか。日本で売れるミネラルウォーターの量は、43年でおよそ57倍。そして宅配水の会社の決算を見ると、水そのものにかけているお金は、驚くほど小さいのです。日本の水ビジネスの核心について、リサーチャーのcomugiが解説します。
(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年8月3日配信『「水」こそマーケティングの教科書である:水と電気とAIとインフラの話 #コムギコ #88』より)
43年で57倍。水道水が飲めるのに、水は売れ続けている
日本ミネラルウォーター協会の統計によると、日本のミネラルウォーター類は、国内生産量と輸入量を合わせて、1982年には年間8万7000キロリットルでした。それが2025年には498万キロリットル。43年で、およそ57倍です。国民1人あたりにならすと年間40リットルほど。毎日コップ半分くらいの量を、私たちは買って飲んでいる計算になります。
瓶詰めの水そのものは、意外と古くからあります。1929年には、いまの富士ミネラルウォーターにつながる事業が「日本エビアン」の名前で製造・販売を始めました。ただし、主な売り先はホテルや料飲店です。
この業務用の市場を大きく育てたのが、戦後のウイスキーの水割りでした。1950年代から70年代にかけて水割りが大流行し、おいしい水で割ることがバーや料理店の売りになります。この需要に応えるかたちで、1970年、サントリーが割り材として「サントリーミネラルウォーター」を発売しました。日本のミネラルウォーターは長いあいだ、家庭の飲み水ではなく、お酒の名脇役だったのです。
家庭に入ってきたのは、だいぶあとです。1983年、ハウス食品が「六甲のおいしい水」を発売し、家庭用ミネラルウォーターの市場を切り開きました。カレーの会社が水市場を切り開いた、というのも興味深い話です。そして1991年、サントリーが「南アルプスの天然水」を発売します。採水地は山梨県の白州ですが、商品名に掲げたのは山域の名前でした。「富士」「六甲」という先例に続いて、水源のある地域のイメージが、日本の水の大事なブランド要素になっていきます。














