家族形成不安の背景にある社会環境の変化
AさんやBさんのように将来の家族形成に関する不安や悩みを抱える多くの人が「家族留学」に参加してきた。では、なぜこのような不安を抱えているのだろうか。
NPO法人manmaの取り組みを私自身より上の世代の方に紹介すると「子育てなんてなんとかなるのに、なんで今の若い子たちは不安なんだろうね」と言われることがある。この「なんとかなる」という感覚について、なぜ上の世代と私たち世代で違うのか、なぜ私たち世代はこの「なんとかなる」という感覚を持ちづらいのだろうか。
かつては、親戚の子どもや近所の赤ちゃんと自然に触れ合い、地域の中で子育てを目にする機会があった。しかし、核家族化や都市化が進むなかで、そのような接点は次第に失われていった(※ 厚生省『厚生白書 平成10年版』第1編第1部では、近所付き合いや親戚付き合いを通じた子育てへの関わりの喪失と、母親の孤立した育児について指摘している)。
日常の中で子どもと触れ合う機会が減少した一方で、スマートフォンを開けば育児や結婚に関する情報は溢れている。長時間労働、ワンオペ育児、保育園不足、産後うつ、夫婦間の葛藤…。若い世代はSNS上に溢れるネガティブな情報を通して、「共働きで本当にやっていけるのか」「子どもが生まれたら自由な時間はなくなるのではないか」「仕事を続けられるのだろうか」といった漠然とした不安を抱えやすくなっている。
そうした不安を語る人々は、SNSを通して多くの情報を持っている。しかしその一方で、「なぜ親たちは子どもを持とうと思ったのか」「夫婦はどのように協力しているのか」「大変さの中にどんな喜びがあるのか」については具体的なイメージを持てていないケースが多い。そこに、現代の若い世代の家族形成不安の一因があるように思う。
これまで「家族留学」に参加した人の多くは、参加前に抱えていた漠然とした不安が前向きに変化し「なんとかなるかも」という感覚を持って帰るのである。
参加者へのアンケート結果では、「共働き・子育てとの両立への不安が解消された(86.0%)」、「結婚したい気持ちが強まった(80.6%)」「子どもを持ちたい気持ちが強まった(84.9%)」と、家族形成に関する不安が前向きな意識に変化していることがわかる。
また、興味深いことに受け入れ家庭にも前向きな変化をもたらしている。受け入れ後のアンケートでは「質問に答えるなかで、自分たち家族について改めて考える機会になった」「自分の経験が若者の役に立ったことがうれしかった」「自分たちの何気ない日常にも価値があることに気づいた」こうした声が数多く寄せられている。家族留学は若い世代への支援であると同時に、世代間のつながりを回復する取り組みにもなっている。
少子化対策というと、どうしても即効性のある経済支援や制度改革に目が向きがちになる。もちろんそれらは不可欠だが、それを受け取る若い世代の気持ちに寄り添い、不安を解消するような取組も必要なのではないか。若い世代が子どもや家庭と出会い、多様な生き方に触れ、前向きなヒントを得る支援が必要だと考える。
「家族留学」は結婚や出産を勧めることが目的ではない。多様な家族のあり方を知ったうえで、一人ひとりが自分らしい人生を納得感をもって選択できる社会を作りたいと思い、この取り組みを続けている。
多様な家族のあり方に触れることで、「あんなふうになりたい」「こういう形もありなんだ」という引き出しを増やしておくこと。それが、いざライフイベントに直面した時の「選択する力」になると信じている。
<執筆者略歴>
越智 未空(おち・みそら)
特定非営利活動法人manma代表理事
1994年、神奈川県生まれ。
法政大学経営学部在学中にオーストラリア・シドニー大学へ留学しジェンダー学などを学ぶ。
大学時代から関わっていた任意団体manmaの活動を継続し2021年にNPO法人化。現在は代表理事として若者向けライフデザイン支援プログラム「家族留学」などを全国で展開。
こども家庭庁「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」委員等を歴任。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














