“世界女王”との決別、新フォームへの挑戦
そして再起へ向け、北口は最大の変革へと踏み切ることになる。それは、長年親しんだフォームの修正だった。
「もともと私は1回やりを下げて引いていたんですけど、コーチからも『あえてやらなくてもいいんじゃないか』と指摘されてやめました」
フォームの修正は、世界女王へと上り詰めたかつての自分との決別を意味していた。北口は「彼が見た時に私の投げ方は違うって言われて、『(その投げ方は)来世でもうちょっと早めに出会ってやろう』と言われました」と笑顔を見せる。
もちろんリスクも伴うが、フォーム変更に対する不安はなかったのだろうか。
「合ってるかは、考えたりしなかったですね。絶対合ってると思ったんで」と北口は断言する。間違っていないと言い切れる理由は明確だった。「世界で一番飛ばしている人だから」と、ゼレズニーコーチへの信頼に、北口に迷いはなかった。

しかし、新フォームへの移行は一筋縄ではいかない。目線のブレを抑え、助走のスピードをそのままやりへと伝えることができる理想の形だが、投げ切るタイミングの習得は容易ではなかった。
以前は助走で一度やりを下に降ろし、タイミングを計っていた。
「今までどうしても、やりが一回視界から消えるので。下に降ろすと。それを目で追っちゃう時があって」
視線のブレが、やりを構える位置のズレに繋がっていたと北口は説明する。さらにその動きは、助走の推進力を殺す要因でもあったのだ。
課題をクリアするための新フォームだが、練習中には「助走が安定していない。ちょっとぐらついた」と漏らす場面もあった。
「助走から投げまでストップがない状態で投げるのが自分の中では難しい」
そう語る北口は、一投ごとにゼレズニーコーチのアドバイスを噛み締め、新たな感覚を身体に染み込ませていく。
「助走はよかった、ただ少しだけ体が開いていた。ほんの少しだけ肩がね。でもいい投げ方だ」
名将からの言葉を受けながら、2か月半に及ぶ合宿で、北口はひたむきに自分を見つめ直していた。

















