トランプ米大統領の通商チーム内では、二つの厳しい結論が浮上しつつある。中国が通商合意を順守していないこと、そして米国はそれについてあまり対応を取るつもりがないということだ。

自動車や戦闘機を含む幅広い製品を製造する米企業にとって不可欠な重要鉱物、レアアース(希土類)の供給を再び確保することは、トランプ氏が昨年10月、韓国・釜山で中国の習近平国家主席と締結した合意の主要な目的の一つだった。

しかし、複数の関係者が匿名を条件に明らかにした会合やメッセージの内容に基づけば、ホワイトハウスと米通商代表部(USTR)のスタッフは、トランプ政権の理解する合意内容を中国が単純に履行していないことを認めている。

さらに関係者によると、釜山での米中首首脳会談以降、トランプ政権の通商チームには沈黙が支配する状況が続いている。

中国への不満やいら立ちの声はトランプ政権内で数多く上がっているものの、米政府が中国を公に非難して両国を再び貿易戦争に引き戻す事態を避けようとする「沈黙の文化」が広がっていると、事情に詳しい関係者は説明した。

当局者の一部は、トランプ氏が9月に予定する習氏の盛大な国賓訪問を危うくしかねない異議申し立てには、とりわけ消極的だとみている。また、中国側を強くけん制すれば、習氏が報復措置をエスカレートさせ、重要鉱物へのアクセスを全面的に遮断したり、11月の米中間選挙を前に市場の動揺を招いたりする恐れがあるとの懸念もある。

Photographer: Alex Wong/Getty Images

中国は、米国との通商合意を順守していないとの見方を否定している。レアアースに対する輸出規制は国際ルールに適合していると主張する一方、米国が中国企業に対する規制を導入することで貿易休戦合意に違反していると非難している。

ある米政府当局者はコメント要請に対し、政権は常に合意内容と中国の履行状況を監視しており、中国は一部の項目では他の項目よりも順守状況が良好だと述べた。匿名を条件に取材に応じたこの当局者は、履行上の問題を中国側に提起し、解決に向けて対応が進められていると説明した。

また、中国のサプライチェーン規則に関して近く対応を講じる予定を示唆するとともに、この記事の情報源については、事情を十分に把握していないとして退けた。

ただ、中国商務省が4月にこれらの規則を発表した際、米国が積極的に非難することはなかった。一連の規則では、サプライチェーンを中国依存から移したり、その他のリスク低減の取り組みを進めたりする国や企業を処罰するとしている。また、米国は先月、中国が米企業数十社に新たな貿易規制を課した際も、公には非難しなかった。

ベッセント米財務長官とグリア米通商代表部(USTR)代表は過去1年間に中国側代表と6回にわたり会談を重ね、米企業にとって重要な原材料の調達を巡る問題の解決を試みたが、受け入れられなかった。

グリア氏は15日夜のブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「米中合意のうち、レアアース関連事項を巡る中国の履行は完璧ではない」と指摘。「とは言え、レアアースは供給されている。それがないために工場が操業停止に追い込まれている状況ではない」と述べた。

動画:グリアUSTR代表は「レアアース関連事項を巡る中国の履行は完璧ではない」と発言

また、今後予定されている首脳会談について、「中国による大豆やその他の農産物の購入に関する約束を点検する機会になる」とコメント。その上で、「レアアースの問題も点検することになる。関係を再確認し、中国が合意した内容を順守していることを確かめる機会になると思う」と話した。

一方、民間企業も供給のボトルネック解消に向け、独自の外交的な取り組みを行っている。

半導体製造装置で米最大手のアプライド・マテリアルズは最近、製造工程に不可欠な材料の供給が滞っている理由を確認するため、幹部を北京に派遣した。データセンター向け重要部品の光トランシーバーを製造するコヒレントは、5月のトランプ氏の訪中にジム・アンダーソン最高経営責任者(CEO)が同行した。同社は実際に出荷を再開するよう働きかけている。

アプライド・マテリアルズとコヒレントはいずれもコメントを控えた。

米中ビジネス評議会(USCBC)は先月公表した会員調査で、中国からのレアアース調達について、「長期化し透明性を欠く許認可手続きや遅延、サプライヤーとの調整の複雑化など業務上の課題が続き、引き続き安定していない」と指摘した。また、一部のレアアースは「ほぼ入手不可能な状態」が続いているとした。

事情に詳しい関係者によると、トランプ政権内では9月の首脳会談について、問題是正の機会と捉える向きもある。USTR当局者の1人は内部会合で、首脳会談ではレアアース問題が最重要議題になるとの認識を示したという。

もっとも、米国が完全に波風を立てることを避けてきたわけではない。

米国防総省は6月、中国の軍事力を支援しているとみる企業のリストを更新し、電子商取引大手アリババグループ、AI企業の百度(バイドゥ)、自動車メーカーの比亜迪(BYD )などを追加した。いずれの企業も指定に反対している。

この措置により、国防総省はこれら企業と契約を結ぶことができなくなるほか、他の連邦政府機関や米企業も取引を控える可能性が高い。トランプ政権はこのほか、中国企業を対象とした連邦通信委員会(FCC)の一連の措置も発表している。

それでも、一部の米政府当局者は、中国が米国の反応を引き出すまでどこまで踏み込めるかをテストしており、米国がこの数カ月間に対応を取らなかったことを、米側からさらなる譲歩を引き出せるとの許可と受け止める恐れがあると懸念している。

米国の交渉担当者が依然、重要原材料へのアクセスについて、中国側当局者から具体的な内容を書面で取り付けられていないことが大きな懸念材料の一つだ。このため、約束の内容は解釈の余地が残されている。中国は合意の趣旨には反していても、条項自体は順守していると主張することが可能だ。

在米中国大使館の劉鵬宇報道官は、「双方は両国首脳が達した重要な共通認識を実行し、両国の経済・貿易協力と世界経済にさらなる安定をもたらす必要がある」と表明。「中国は平等、尊重、相互互恵の精神に基づき、両国首脳が達した重要な共通認識を米国と共に実行し、協力分野を継続的に拡大して双方に利益をもたらす用意がある」と語った。

昨年10月の合意では軍事装備品の輸出は明確に対象外とされたものの、防衛関連企業や下請け企業にも影響が及んでいる。米国防総省で最近開かれた会合では、中国から磁石が十分なペースで供給されないため、大手防衛企業や下請け企業が完全な性能を備えた防衛装備品を予定通り納入するのに困難を抱えていると、軍当局者に報告があった。

米国の比較的静かな対応を受け、トランプ氏には長期にわたる通商対立を続ける意思や忍耐力が欠けている兆候と、中国側が受け止めることを米当局者の一部は懸念している。

釜山での合意以降、トランプ氏は公の場で中国との通商上の摩擦をおおむね問題視しない姿勢を示し、習氏を称賛するとともに、自身と習氏との緊密な個人的関係を繰り返し強調している。

ベッセント長官とグリア代表は、中国側との直接協議で繰り返し譲歩を提示してきたが、中国側は合意の内容を書面化することには応じていない。

元USTR次席代表代行で、現在はアジア・ソサエティー政策研究所のシニアバイスプレジデントを務めるウェンディ・カトラー氏は、「われわれは休戦で自ら武装解除してしまった」とし、「その結果、行動の選択肢は大きく制約されている」と語った。

グリアUSTR代表

首都ワシントンで予定される首脳会談に向けては、交渉上の切り札を維持することが極めて重要になる。

事情に詳しい関係者の話では、中国はトランプ氏の残りの任期を通じて通商休戦を延長する案を提案する見通しだ。中国には、トランプ氏が政治的に脆弱(ぜいじゃく)で他の課題への対応に追われている局面を利用し、対中政策を事実上まひさせるような合意を米国に受け入れさせる狙いがあると、関係者はみている。

だが、トランプ氏は、条件が不公平だと判断した場合や、自身に有利な条件で再交渉できる機会があると考えた場合には、合意を破棄する姿勢をこれまでも繰り返し示してきた。また、この問題に詳しい関係者によると、トランプ氏は5月に習氏と会談した際、中国による米企業への威嚇に対する異議を直接伝えたという。

一方で、現在の緊張緩和を維持することにも一定の合理性がある。トランプ政権は、中国以外に重要鉱物のサプライチェーンを構築することに注力しているが、こうした取り組みが成果を上げるにはなお数年を要する公算が大きい。米国としては、重要鉱物市場を中国が独占する状況から脱するまで、難しい交渉を先送りすることに利点があるとみている可能性がある。

ただ、外部の専門家の間には懐疑的な見方もある。

米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の中国専門家、デレク・シザーズ氏は「トランプ大統領がなぜ習近平氏と会いたがっているのかは明確ではない」と指摘。「会談を重ねるたびに、トランプ大統領が当初掲げていた対中姿勢と、現在向かっている方向との隔たりは大きくなっている」と論じた。

原題:Trump’s Aides See China Cheating on Trade, But Shun Reprisal (1)(抜粋)

--取材協力:Joe Deaux、Maggie Eastland、Dina Bass、John Harney、Ryan Chua.

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