シリコンバレーはかねて、能力本位で誰もが評価される実力主義の理想郷を標榜してきた。そこでは、組織の序列に異を唱えることが奨励され、優れたアイデアは誰が生み出したかに関係なく、日の目を見ると考えられてきた。しかし、現実はそれほど単純ではなかった。

長年にわたり、請負業者や派遣社員から成る巨大な影の労働力が、主要テック企業の成長を支え、二層構造の職場を生み出してきた。正社員は手厚い報酬や福利厚生を享受する一方、契約社員らには福利厚生や雇用の安定、社内での地位が与えられなかった。

しかし今では、巨大テック企業の内部でも契約社員と正社員という区分を超えた、新たな階級格差が生まれつつある。AIの序列の頂点に立つ人材と、それ以外の従業員との間に新たな境界線が引かれたのだ。AIは本来、組織の階層構造を平坦化すると期待されていた。ところが実際には、より強固な権力構造を生み出す危険性をはらんでいる。

こうした格差が最も顕著に表れているのがメタ・プラットフォームズだ。次世代の技術革新を担うAI部門のエリート人材には目を見張るほどの高額報酬と潤沢な経営資源が与えられている。対照的に、その他の従業員は、AIツールを積極的に活用している人であっても脇役とみなされている。変革の後押しを期待されていながら、AIによって自らの仕事が奪われるリスクにも直面している。

マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)も、この現実を認めている。同氏は昨年、ジョー・ローガン氏のポッドキャストで、AIが近く中堅エンジニアの一部の仕事を担えるようになるとの見方を示した。

消費者を苦しめる「K字型経済」という言葉をご存じだろう。今や「K字型企業」の時代と言えるかもしれない。経済全体と同様に、巨大テック企業でも「持つ者」と「持たざる者」の格差が拡大し、二極化が進んでいる。

「K」の上側に位置するのはAI人材エリートで、高報酬と名声を得て存在感を高めている。半面、下側に位置する人々は使い捨て可能な存在として扱われ、将来はより不透明になり、社内での影響力も低下している。CEO向けコーチで、グーグルの元人事責任者でもあるラズロ・ボック氏は、「従業員の間で極端な格差があっても構わないという風潮が生まれてしまった」と指摘する。

もっとも、すべては相対的な話だ。社会全体で見れば、最も恵まれない立場にある人々の状況は、テック業界で働くほぼ全ての人より厳しい。しかし、格差拡大が怒りや反発を招いてきたように、メタでも同じことが起きる兆候が現れている。将来を託す技術革新が、従業員による公然たる反発を招くリスクだ。

メタの従業員は請願書に署名し、経営陣を公然と批判している。英国では労働組合の結成を目指す動きもある。新型コロナウイルス禍後の数年間、経営陣が権限を取り戻してきたが、こうした動きは職場での力関係が再び従業員への方向に傾き始める「芽生え」かもしれないとボック氏は話す。

メタ社内では、「持つ者」と「持たざる者」の格差が際立つ。AI部門の幹部や研究者には数億ドル規模の報酬パッケージが提示されている。会社全体では大規模な人員削減が続く中、一部には引き留めるためだけに50万ドル相当(約8100万円)の追加株式報酬が提示されたとも報じられている。

従業員の1人は米誌ワイアードに対し、高額報酬を受け取り、AI開発と密接に関わる人材だけが恩恵を受けていると語った。さらに別の従業員は、「不満を抱いていないのは、文字通り経営幹部だけだ」と言い放った。

一方で、持たざる者の一部は、「魂をすり減らす強制収容所送り」と形容される部署への異動を命じられた。利益が拡大する中でも、人員削減の波は続き、報酬の中央値も切り下がった。

従業員のキーボード入力やマウス操作は、同社のAIエージェントの学習に利用するため追跡されていた。(同社は、従業員が警告していたような情報セキュリティー上の問題が実際に発生した後、この取り組みを中止した)

アンドリュー・ボズワース最高技術責任者(CTO)は、経営陣の基本姿勢を「辞めるか、異論があっても従うかだ」と説明した。

その結果、士気の危機と呼ばれる状況にまで陥っている。直近の人員削減では、かつて米企業で最も人気の高い勤務先の一つとされた同社から、むしろ解雇されることを望む従業員までいたという。

ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授は、「彼らはシリコンバレーの『早く失敗しろ』という発想を、無謀な実行と取り違えている」と指摘した。その上で、「これはAIイノベーションに伴う創造的な混乱ではなく、基本的なマネジメントの崩壊だ」と述べた。

メタ・プラットフォームズの経営陣も、自社が問題を抱えていることを認識している。ワイアードによると、幹部らは新たなAI組織の立ち上げを酷評し、職場環境が「過酷」になっていることも認めた。ザッカーバーグ氏も、会社が過ちを犯したと認めている。

従業員には、管理職による支援の強化や組織運営の安定化、年内はこれ以上の大規模な人員削減を行わないこと、チーム予算の拡充、「マイクロキッチン」の改善などが約束された。不評だった固定席を設けないフリーアドレス制度も縮小されつつある。

こうした対応は、経営陣が突然思いやりを持つようになったからではない。従業員をパートナーではなく交換可能な歯車として扱えば、結果としてビジネスにも悪影響が出るからだ。

ロイター通信によると、ザッカーバーグ氏は最近、メタのAIエージェント開発が経営陣の期待ほど順調に進んでいないことを認めた。また、ブルームバーグ・オピニオンのパーミー・オルソン氏が先頃指摘したように、新たなAIシステム「Muse Spark(ミューズ・スパーク)」は、OpenAIやアンソロピックの最先端モデルが示す最高水準のベンチマークに及んでいない。オープンソースのAIモデル開発でも苦戦している。

K字型経済では、下層に位置する人々の間で不信感や不安、冷めた見方が広がる。同じことはK字型企業にも当てはまる。ザッカーバーグ氏が士気向上を目的としたハッカソンの開催を発表した際、ワイアードによると、従業員の反応は冷ややかだった。

人員削減の余波で他の業務に追われ、時間的な余裕がなかったためだ。業績評価につながらないことに時間を割く余裕はないとの声も上がった。ある従業員は「この会社はもはやハッカソン文化を支えていないと思う」と社内投稿に書き込んだ。別の従業員は「安心してハッカソンで新しいことに挑戦できる環境だとは思えない」と投稿した。

何より皮肉なのは、メタ自らが何が問題だったのかを理解していることだ。ボズワース氏は社内メモで、「専門性や貢献が評価され、成長してキャリアを築き、価値を生み出せるという、社員が会社に対して抱いていた信頼を損なってしまった」と記した。

企業が社内で貴族階級と下層階級を生み出せば、こうした事態は避けられない。そのゆがみを解消するには、マイクロキッチンの軽食を充実させる程度では到底足りない。

(ベス・コウィット氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米企業を担当しています。以前はフォーチュン誌のシニアライター兼エディターでした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Meta Ushers In the Era of the K-Shaped Company: Beth Kowitt(抜粋)

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