「身体の使い方が小学生レベルだった」
「まだ自分の体の60%しか使いこなせていない。 でも、残り40%があると思える」
この言葉は、単なる“伸びしろ”の話ではない。
自分の身体を構造から理解しようとする発想そのものだ。
「今しかできない。今こそ自分と向き合うことが大事だと思ったんです。常に自分のいいコンディションを作り続けて、いいものに持っていくっていうのが自分の中での目標。バレーボールを長く続ける。しかもパフォーマンスを高いレベルで維持しつつ常に代表で戦えるように」
西田の肉体・思考の改造に大きく関わった里大輔トレーナーは、こう話す。
「体の使い方が小学生レベルでした」
衝撃的な言葉だが、 その後に続いた言葉がすべてだった。
「彼の持ち味は“力”じゃない。“柔らかさ”なんです」
本来の能力を最大化するために、感覚に頼ることなく、自分の体を理解する地道な動作を積み重ねた。そして、その一つひとつを言葉に変えていった。
西田は言葉を紡ぎだす。
「『難しく捉えろ』という話ではない。誰でも知っている『基本のこと』を、いかに丁寧にやる動作の中で、『これをこうしよう、ここをこうしよう』と、“動きを細かく再分割すること”が一番難しいんですよね。その中でボールの返球の質(コントロール)をどうしようとか結果の話じゃなく、『自分の体をどう動かして、ボールについていくのか』という、プロセスの認識が大事になってくるんです」
丁寧に例えを挙げてくる。「例えばサーブ1つでも──」 と、西田はゆっくり言葉を選ぶ。
「手先だけでボールを上げるのか? それとも足先から始まって全身の連動から上げるのか? トスの高さはどうするのか?細かく分割すると、結局体を動かす色んな技術が必要になる。飛んでから実際にボールをヒットするまで一瞬。0.1秒くらいの時間。その0.1秒の前に起きる助走やタメの動作は、頭の中で何分割にもスローモーションにしていくんです」
動きを分解する作業は技術論で終わる話ではなかった。己の体の構造を知り、その動きが生まれる思考の過程をたどる。無意識に行っていた動きを、一つひとつ言語化していく。自分自身のプレーの意図をより明確にするために。
「『自分が本当に強くなりたいと思うか、思わないか』で、そこまで深く追求できるか、できないかが変わる。 いかにそれを自分でロジカルに理解して、自分の技術にするスピードを早くできるか。早くすることによって、結果的に選手寿命が長くなったり、日々の体のコンディションの管理がより自分なりに明確になるところに繋がっていく」
日々それは自分を律する戦いにもなる。
「いくらでもサボろうと思えばサボれるけれど、サボらずに徹底してやれる選手って世の中に本当に少ない。僕は『やれる側の後者』になりたい。常に努力じゃなくて、こういう追い込みを自分にとっての『当たり前』にしたい」
そこで西田は、これまでとは違う景色を見るようになった。
「『体を動かせる』という言葉の認識自体も、昔と今とでは違う。単に筋肉が動くのか、体を連動させて動かせるようにするのか。少なからず“試合の終盤にスタミナ切れすることは完全になくなったな”というのは、自信を持って言える」
身体への理解が深まる中で、西田は“スタミナ”という言葉の意味さえ見直すようになった。“スタミナ”とは、体力だけではなく“思考を止めない力”でもある。西田は、そう捉えるようになった。
「スタミナ切れしないということは、試合の終盤になっても“脳の思考が絶対に止まらない”ということ。思考が止まらないということは、必然的に体も止まらない。すべてが繋がっていく。だから、アスリートにスタミナが必要というのは、体力のためというよりは、『思考が停止しないようにするため』。思考が停止しなければ、自分の思うように体を動かし続けられる。でも、思うように動かすためには、常に頭をフル回転させて使わないといけない。スタミナが切れると、思考が全部止まって楽な方へと逃げてしまう。これがプレーに端的な判断を招くようになる。コートの中で“楽な方の選択肢”を選ぼうとする。いくらでも楽をしたいシチュエーションは試合中にいっぱいある。『難しい方を選べ』という意味ではなく、自分なりに、自分の中でその時の局面(シチュエーション)で、『何が今、チームにとって1番最優先なのか』っていうのを、瞬時に頭を使って理解することが、1番重要なこと。最適解が何かを常に導き出すことが大事なんです」

















