夜の街を漂流する若者たち。大阪・ミナミのグリコの看板の下、いわゆる『グリ下』。そして新宿・歌舞伎町の東宝シネマズの横、『トー横』。どちらも若者のたまり場になっている。なぜ彼らはそこに集まり続けるのか?取材を続けて見えてきた実態とは。
大阪・グリ下の若者を取材…しかし「帝王がいないので答えられない」

大阪・ミナミの戎橋の下にその場所はある。グリコの看板の下、略して『グリ下』。2021年の夏ごろから若者たちのたまり場になっている。

この場所に何を求めてやってくるのか。去年8月、取材班はグリ下に集まる若者たちに話を聞いた。
(記者)「こんにちは。みんな何歳?」
(若者)「何も答えられない」
(若者)「人がいないんで。“一番上”の人が」
(記者)「一番上の人がいない?一番上ってどういう?」
(若者)「偉い人」
(若者)「帝王ってやつが今いないので。トップが今ここにいないので。基本的にそいつにいろいろ決めてもらっているんで」
取材した日の午後5時、集まっていたのは9人の男女。グリ下には帝王と呼ばれるリーダー格がいるという。

(記者)「みんなはどういうつながりがあるの?」
(若者)「ここで出会っただけ」
(若者)「公園でおばあちゃんおじいちゃんが仲良くなっているのと同じ」
(記者)「おうちの人は心配しない?」
(若者)「しないしない」
家庭の話をすると、あからさまに表情を曇らせた。時間をかけて彼らの心の内を探る。
「ここを奪われると困る」彼らにとっての『グリ下』

日が沈み、川面に揺れるネオン。大人に対する不信感が渦巻いていた。
(若者)「もうええやん。ただ単に困っている子がいるから集まっている、ただそれだけでええやん。もうグリ下に関わらんといてほしい、大人」

タバコを手に声を荒らげる男性。事情を尋ねると少しずつ話をしてくれた。
(記者)「お兄さんはどういう事情があった?」
(若者)「家庭ですね、普通に。話を聞いてもらえなくて、親に。困っていることとか相談に乗ってもらえなくて」
(記者)「お兄さんにとってグリ下ってどういう場所?」
(若者)「ほんまになんやろ…一個の居場所。ほんまに居場所。ここを奪われると正直困ります。仲良くなった子もいるし。ここに集まるのが間違いなのはわかっているんですよ、みんな。でも集まれる場所がここにしかない」
(記者)「ここにいっぱいいるけど、全員、名前と顔はわかる?」
(若者)「わかる子もいるし、新しく来た子とかもいるから」
(記者)「でも、何となくみんなつながっている?」
(若者)「そうじゃない?」
似た境遇を持つ者同士が、緩やかに、それでいて確かにつながっている。そんな実感を持てる場所がグリ下なのだという。