実際に車いすに乗って確認――「どう生活しているか」視点を変えたセット作り
競技面のリアリティーを追求する一方で、美術チームがもう一つ大切にしているのが、“車いすで生活する人々の日常”をどう描くかという点。
二見さんは、「車いすラグビー」というテーマについて、「慎重に捉えすぎてしまっていた部分があった」とも明かす。そんな中、初期の段階で「無用な覚悟や気負いのようなものを持つのは違う」と感じる変化があったと話す。
変化のきっかけとなったのは、監修の峰島靖選手や練習に協力していた実際の選手たちとの“綿密な”コミュニケーション。美術チームよりも早い段階から、平野監督やプロデューサーが峰島選手らとのやりとりを重ねることで、「人間同士として打ち解けていたんです」と二見さん。そこで、気負いは自然となくなっていったと言う。
「変な脚色はせず、“嘘”はつきたくない」(二見さん)という思いを改めて共有しながら、古積さんはセットをデザインする際に、実際に車いすを使っている人たちにも取材。ただし、車いすで生活する際の“不便さ”に目を向けるのではなく、“必要なものは何なのか”と考える視点に変わっていったと言う。
紙面上でも「ここは通れない」「この設計だとおかしい」などと相談しながら、セットごとに実際に車いすに乗って動線などを確認。セットが完成してからは、さらに「ここなら手が届くので、この位置にしよう」というように、小道具の位置も毎回変えるなど工夫している。
細部にまで積み重ねられた徹底したリサーチや、制作陣との1年近くにもわたる対話――。車いすラグビーの世界を舞台に、「人間ドラマ」を描くためのその空間づくりには、“嘘をつかない”という美術スタッフの思いも刻み込まれている。














