かつて、中国の技術力の象徴といえば三峡ダムでした。

NASAが「地球の自転に影響を与え、1日の長さを0.06マイクロ秒長くした」と指摘するほどの巨体であり、年間7000万世帯以上の電力を賄う世界最大の発電量を誇っています。

しかし今、中国はヒマラヤ山脈の東端において、それを遥かに凌ぐ野心的な計画を推し進めています。

ほとんどの人に知られていない川で始まろうとしているこの計画は、「今世紀最大のプロジェクト」であり、かつてない驚異的な発電システムです。

火星探査ミッションにも匹敵する大事業の全貌と、それがもたらす地政学的・環境的な波紋に迫ります。

「世界の屋根」に現れた地質学的な奇跡

舞台はチベット高原。厳しい美しさを湛え、地球上で最も高い場所にあることから「世界の屋根」と呼ばれる地域です。

ここを流れる氷河の雪解け水は「ヤルンツァンポ川」となり、高原の縁に沿って東へ1000キロ以上流れます。

川がチベット高原とヒマラヤ山脈が出会う地点に達すると、地質学的な奇跡と呼ばれる「大屈曲部」が現れます。

東へ流れていた川が180度大転換し、西へと流れを変えるのです。このわずか50キロの間に、川の標高は一気に2000メートルも急降下します。

世界最大と言われるこの大峡谷は、アメリカのグランドキャニオンより3倍も深く、長さも上回ります。

この世界で最も急で深い自然の落差こそが、桁外れの発電能力を生み出す源泉なのです。

川はその後中国を離れ、インドに入ると「ブラマプトラ川」と名を変え、最終的にバングラデシュを経てベンガル湾へと注ぎ込みます。

この大屈曲部において「ヤルン川下流 水力発電プロジェクト」の建設が2025年7月、正式に決定しました。